そもそも、着物が普段着だった時代は、それぞれが自分に合った着方をしていたはず。

「出かけるときや掃除をするとき、職業などで、着物の着方を変えていたはずです。“この着方だけが正しい”なんてありえなかったでしょう」(井田さん)

 どうやら、着物を知らない人ほど着物警察になりやすい、ということのようだ。

 着付けを教える先生にもおうかがいしてみた。

「着物警察なんて言葉、初めて知りました。むしろ私も着物警察をしてしまったかしら……(苦笑)」

 というのは、全日本きものコンサルタント協会会員で、下玉利礼法きもの教室を主宰する下玉利洋子さん。

「浴衣の襟合わせが逆で、今にも脱げそうになっていたお嬢様に声をかけ、その場でお直しをして感謝していただいたことがあります。その方は、インターネットを参考に初めて着てみたそうですが、鏡を見ながらだったため襟が逆になってしまったようでした。襟が逆ですと死に装束ですので放っておけず……」

 下玉利さんの場合、取り締まるどころか、「若い人が着物を着ているのを見るだけでうれしくなってしまう」という。

「だって、もっとたくさんの人に着物に親しんでいただきたいですからね。インスタグラムで若い人の着物の着こなしを見るのが好きです。

 着物は学び始めると、枠にあてはめなくてはと考えがちです。確かに、お茶席や冠婚葬祭の装いは型が決まっています。しかしそれ以外は文化だからこそ、新しい発想とセンスを取り入れながら継承されていってほしい。そのためには、他人からの指摘を気にするよりも、自分の着やすい着方を知ることが大切だと思います

 NHKの大河ドラマや映画などのマナー監修も手がける、マナーコンサルタントの西出ひろ子さんもこう話す。

「人さまの体形やお化粧にまで難癖をつけるなんて、マナー以前の問題ですね。聞きかじった人ほど、型ばかりを守ろうとするものなのです。

 着物というその道の専門家、その道を多少なりとも知っている人であれば、その知識を、人さまや社会のために、相手が気持ちよく、心地よくプラスになるように伝えて差し上げること。これが本来の『着物警察』の役割なのではないでしょうか」

 平和と安全を守るように、着物の素晴らしい多様性を守り伝える人たちこそが着物警察と呼ばれてほしいもの!