最後にふれておきたいのは、メディアの報じ方。ほとんどのメディアがトップニュース級の扱いで、渋谷さんを肯定し、関ジャニ∞のメンバーを称賛する形で報じていました。これ自体はまったく問題ないのですが、もう一つのニュースがメディアの問題を否応なしに浮き上がらせていたのです。
それは、大杉漣さんのお別れ会に関するニュース。ここで草なぎ剛さんが参列者の代表として、「僕はやっぱりまた漣さんとお芝居したいです」と声を震わせながら弔辞を読み、すすり泣きする人がいるほどでしたが、そのことを報じたワイドショーは、ほぼありませんでした。
代わりに流されていたのは、大杉さんとの共演歴がより少ない村上信五さんのコメント。これを見た人々はネット上に、「ジャニーズ事務所への忖度にもほどがある」「漣さんにも失礼」などと不満の声をあげていきました。
まだまだ続くテレビ局の忖度
これまで、3月のパラ駅伝イベント、映画『クソ野郎と美しき世界』、楽曲「雨上がりのステップ」なども報じられませんでしたが、今回もスルーされたことで、ワイドショーを放送するテレビ局への不信感はたまる一方。もはや、「健全ではないフィルター機能が働いていることを知らない人のほうが少ない」と言える状態に突入した感すらあります。
そろそろジャニーズ事務所も、「テレビ局がやっていることだから」「ウチが要求するということはない」というスタンスではなく、自ら「忖度はいらない」という姿勢を見せなければ、その企業イメージは共倒れになってしまいかねません。
私が知る限り、両者ともこれまでの商慣習を継続しているだけで、ほとんど悪気はないでしょう。しかし、現在メディアと芸能事務所に最も求められている「消費者ファースト」の精神からは大きくかけ離れています。
ポイントとなるのは、消費者に「B to B(企業間取引)よりB to C(企業対消費者間取引)重視」という姿勢をどこまで感じさせられるのか? 少なくとも現場の社員やタレントにはその姿勢はあるだけに、上層部の姿勢こそ問われているのです。
「忖度が多く、フィルターにかけられた情報を流す」テレビと、「憶測記事や誤報も多く、玉石混交」のネット。ほどよいものがないところに、もどかしさを感じますが、それらを見る私たちは、正しい情報を見極める目を持ちたいものです。
木村 隆志(きむら たかし)◎コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者 テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。