ヘルプカードは、障害についてメモに記入することで、困りごとを開示する仕組みになっている。
「わかったことは、ヘルプカードがあれば、必要な人として優先席に座りやすい。ただ、つけたからといって電車やバスで席を譲られたことはない。基本的にメリットは少ないけど優先席に座ったときに、つけていると安心感がある。ただ好奇心で見ないでほしい。“あれってヘルプカードだよね”とコソコソ言われたことがあり、はずしました」
また、個人情報がそのまま見えてしまいかねない。シールは防水でもないため、改善すべき点がまだあると榊さんは指摘する。
「頻繁に倒れているわけではないので、いまはつけていません。もし倒れたら、障害者手帳を見せるほうが早いのではないか。それに“私は障がい者です”とレッテルを貼られているようで抵抗があります」
堂々とカードを見せる気持ちにならない
松木久美子さん(仮名=46)も見えない障害があるひとり。'16年の夏、入院先の病院で、インスリンの分泌が足りない『2型糖尿病』と診断された。
「父方の家族もみんな糖尿病なので、遺伝です。私も20代で発症していたけれど、夜の仕事だったので、昼夜逆転の生活でした。うつ病にもなり、糖尿病の治療をあまりしていなかったんです。そのため病状が悪化して即、入院に。インスリンの投与が始まったというわけです」
腎臓も悪くなり、疲れやすく、足も調子が悪い。しかも、網膜症でもあり、レーザー治療を行ったが、改善は見られない。右耳も聞こえにくい。しかし、見た目上はわからない。そこでヘルプカードを入手した。
カードをつけて感じたのは「私が使っていいのか?」という思いだった。周囲にわかるようにつけたのは、1、2回だけ。
「電車内ではみんな疲れている。座りたいサラリーマンばかりのなかで、自分は病気っぽく見えないので、申し訳なさを感じてしまう。本来、カードは見てもらうためのもの。でも、カバンにつけられません。どうしてもつらいときには、チラ見せをしています」
なぜこうした思いを感じてしまうのか。2型糖尿病が「生活習慣病」のため、医師からも、冷たい態度をとられているように感じていることが一因かもしれない。
「“自業自得”という無言のメッセージを感じています。だから堂々とカードを見せる気持ちにならない。見せても、疑われているんじゃないか、と考えてしまう。それに自分よりも体調が悪い病気の人がいるかもしれない。常に見せるかどうか葛藤があります」
電車では、通勤時間が長いためもあり、最初から優先席に座る。
「ここならインスリンを打ってもいいかな。ただ、自分が座っている前で、高齢者から舌打ちされたことがあります」
生活のために当事者はさまざまな工夫を凝らす。ヘルプカードは障害を「見える化」する取り組みだが、なかには遠慮がちな当事者もいて、カバーしきれていない。障害が「見える」か「見えない」かにかかわらず、知識を得て、理解を深めるところから始めたい。