学生寮じゃあるまいし、来訪者の出入りまでチェックされるのは薄気味悪い。カメラの1台は真下のゴミ捨て場に向けられ、もう1台はマンション前の路上を映している。

 雑食のカラスがゴミ袋をあさることはあっても、基本的に草食で穀物や果実などをついばむ公園のハトがわざわざ食い散らかしにくるとは想像しにくい。カメラはバードウォッチング兼人間観察用なのか。

自宅マンション上層階の共有窓には、角度を変えた監視カメラを2台も設置していた
自宅マンション上層階の共有窓には、角度を変えた監視カメラを2台も設置していた
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 前出の男性住人は「ハトもカラスもスズメもツバメも来ませんよ」として次のように話す。

「おそらく、藤井容疑者は鳥を見ていたのではなく、子どもたちを見ていたんじゃないかな。小さな園児がよく通る場所ですからね。ただ、マンション前の路上脇には、農薬をといた水を捨てたような白っぽい跡があるんです。あるいは鳥を建物に近づけないようにまいたのかもしれませんし、その効果で鳥が来ないとも考えられますが……

 容疑者宅は奇怪な工夫が施されていた。換気口にバスタオルを詰め込み、その下の小窓も小さなカーテンで隠している。農薬を溶かした水のにおいや成分などが外部に漏れることを気にしたのだろうか。

 別の住人はこう言う。

「私は藤井容疑者をマンションの管理人だと思っていたので、事件のニュースで『大学の准教授』と知ってビックリしました。だって、スーツ姿は見たことがないし、ほぼ毎日、自宅にいて、いつもマンションの掃除をしているんですから。

 ひとりでブツブツ、ひとりごとを言いながら、ホウキとコロコロを使って。カーペットの掃除じゃなくコンクリートなのに、いつも、コロコロ、コロコロ、やっているんです」

 外出時はパーカーのフードをかぶるか、チューリップ帽姿。住人とは目を合わせないという。

 容疑者の研究分野は英語の会話・談話分析や社会言語学。今春、勤務先の大東文化大学で講師から准教授に昇格したばかりだった。10年前から容疑者を雇用する同大は、

「大変、ご迷惑をかけております。ただ、精神的な疾患ということも考えられますので、今後の捜査や裁判の経緯を見守りながら、適正な処分を決めていきたいと思っております」とコメントした。

 平和の象徴であるハトを毒殺したインテリ系バードキラーはなぜ毒殺の手法をとったのか、犯行動機の詳細な解明を待ちたい。


やまさき・のぶあき 1959年、佐賀県生まれ。大学卒業後、業界新聞社、編集プロダクションなどを経て、'94年からフリーライター。事件・事故取材を中心にスポーツ、芸能、動物虐待などさまざまな分野で執筆している