民主主義らしからぬ金銭面での制約
ちなみに普通選挙法公布の直前に抱き合わせのように公布されたのは、悪名高い治安維持法だ。労働者運動や社会主義運動への弾圧がその後、一層強まったことは歴史が示すとおりだ。
「戦前の制度の“当時の目的”がいまも根拠にされていること自体、時代錯誤ですし、思想はどうあれ、候補者を判断するのは有権者です。ふさわしくない候補者は選挙で排除されるべきで、一定の金額を納付できるかどうかで候補者を制御するのは民主主義ではない。むしろ、真に当選を争う意志のある人たちの立候補の機会が奪われていることこそを問題にすべきです」(宇都宮氏)
'16年、宇都宮氏を弁護団長とする供託金違憲訴訟弁護団は、高額な供託金制度を違憲とする裁判を東京地裁に起こした。原告は、'14年の衆院選出馬を決意し準備を進めたにもかかわらず、供託金が準備できず立候補が認められなかった、埼玉県の自営業の男性だ。
お金がない人が立候補できない現状は、国民の立候補の自由を保障する憲法15条(1項)、また《議員や選挙に出る人間を財産又は収入によって差別してはならない》とする憲法44条(但書)に反していると主張する。
裁判にあたり弁護団は海外の供託金制度について調査。OECDに加盟する35か国(調査当時/現在は36か国)のうち供託金制度があるのは日本を含む12か国。その内容を比べてみても日本の供託金は格段に高額だ。
●日本 300万円 ●韓国 145・5万円 ●トルコ 32・1万円
●オーストラリア 16・6万円 ●チェコ 8・8万円
●ニュージーランド 7・7万円 ●イギリス 6・9万円
また、カナダでは'17年に地方裁判所が供託金制度を違憲と判断、その判決を受けて政府が供託金制度を廃止しているし、韓国やアイルランドでも違憲判決を受けて金額の引き下げや没収要件が緩和されている。
しかし今年5月24日、東京地裁は原告の訴えを棄却。判決の主文では、高額な供託金を「立候補をしようとする者に対して無視できない萎縮効果をもたらすもの」で「立候補の自由に対する事実上の制約になっている」と認めているにもかかわらず、選挙制度については「国会に裁量権がある」ので判断を避けるという煮え切らない判決だった。
宇都宮氏はこれを、三権分立における司法の役割を放棄した国会への「忖度判決」だと批判。弁護団は5月31日に東京高裁に控訴している。