法改正で犬猫の動物福祉が向上
さらに、繁殖から小売りまでの流通過程で死んでいる犬猫が毎年、少なくとも約2万4千頭いることも、朝日新聞の調査でわかっています。第1種動物取扱業者にかかわる事務を所管する全国の都道府県、政令指定都市、中核市に調査し、判明したものです。'17年度も、少なくとも、犬で1万8792頭、猫で5679頭が死んでいました。
このような状況を改善しようと行われたのが、今年の動物愛護法改正です。超党派の「犬猫の殺処分ゼロをめざす動物愛護議員連盟」が中心になって改正案をまとめ、業者への規制は大幅に強化されました。生後56日以下の子犬・子猫の販売を禁じる8週齢規制がようやく実現し、さらには、飼育施設の広さや従業員1人あたりの上限飼育数を、環境省令によって具体的な数値で規制する制度が導入されます。
'21年6月(予定)に施行されるこの2つの規制により、繁殖用の犬猫、販売用の子犬・子猫の心身の健康を効果的に守れるようになり、悪質業者の淘汰も進むと期待されています。
ただ8週齢規制に関して、日本犬6種(柴犬、紀州犬、四国犬、甲斐犬、北海道犬、秋田犬)については、繁殖業者が一般の飼い主に直接販売する場合、適用対象外となりました。「日本犬保存会」(会長=岸信夫衆院議員)と「秋田犬保存会」(会長=遠藤敬衆院議員)が、8週齢規制に強く反対したためです。
また数値規制について、具体的な数値は環境省の省令に委ねられ、同省は来春ごろまでをめどに、骨子案をまとめる予定になっています。本当に実効性ある規制になるかどうかは、環境省がどのような数値を盛り込むかにかかっています。
ほかにも、消費者トラブルにつながりやすい、インターネット販売や移動販売への規制も強化。繁殖用の犬猫や販売用の犬猫の遺棄防止などを狙って、マイクロチップの装着が繁殖業者に義務づけられます。一般の飼い主についても、社会問題化している「多頭飼育崩壊」を念頭に置いた規制強化などが行われます。
今回の法改正は、生体ビジネスにかかわる犬猫の動物福祉を向上させるという意味では、大きく前進したといえます。今後は、この法律の内容と趣旨を自治体、業者、そして私たち一般の飼い主がしっかりと理解し、適切に運用していけるかどうかが試されます。その先には、日本で暮らす犬猫などペットたちをおおう「闇」が取り払われた社会が、実現できるはずです。
寄稿者・太田匡彦さん ◎朝日新聞経済部記者として流通業界などを取材。現在は特別報道部記者に。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』(朝日新聞出版)など