不誠実な対応だらけの現実
昌之くんが受けたのは生徒からのいじめだけではない。顧問に体罰を受け、3年間で4回、学校に通えない期間があった。ところが市教委は調査委員会の設置が遅れ、決まったはずの学習支援も怠っていた。そのため文科省や県教委は学校や市教委へ再三再四、指導している。
こうした指導に法的な拘束力はないとはいえ、なぜ市教委は指導に応えなかったのか? 市教委は「県教委とは常に連絡、連携し、情報共有はしていた。指導なのかは第三者の判断を待ちたい」と述べたが、県教委は「指導は包括的に行われる。指導にあたるものがあったと認識している」との見解だ。
不誠実な対応はまだある。
裁判長は、市側にいじめを認めるか否か答えるよう再三求めているが、答弁書では一切触れていない。また、昌之くんは中学の卒業証書を手にしていない。市側は裁判所で手渡そうとし、反発を招いた。
昌之くんの母・晴海さん(仮名)は憤りを隠さない。
「調査報告書が公表されたとき、教育長も記者会見で謝罪しました。しかし、裁判では内容を否定しています。法に欠陥があるから、指導しなかったのでしょうか」
いじめ問題への教育現場の姿勢を子どもたちは見ている。それを忘れてはならない。
(取材・文/渋井哲也)
しぶい・てつや ◎ジャーナリスト。自殺、自傷、いじめなど、若者の生きづらさに関するテーマを中心に取材を重ねている。近著に『ルポ 平成ネット犯罪』(ちくま新書)があるほか、現在、来年に刊行予定のいじめ問題に関する著書を執筆中