“穴”を見過ごさないのが総合診療医
それでは「総合診療科」とは、どんな診療科で何をしてくれるのか。
「総合診療科は、その名のとおり患者さんの心身の症状を総合的に診る科です。医療は道具なしに診断するところから始まりました。さまざまな医療機器が登場し、高度に発展した結果、精度を追求されるようになりました。そのうちに、本当に少しずつ、人全体を診るという側面が薄れてきてしまったんです」(島本先生・以下同)
大学病院でも内科がなくなり、臓器別に特化した専門科が並んでいる。
「医学の進歩という面ではよかったが、医師と患者はそもそも『人間と人間の関係である』という考え方が失われたことは否めない。これではいけないという危機感のもと、ひととおりの診断・治療ができる医療が必要だと生まれたんです」
さらに、この総合診療科誕生の背景には、加速化する超高齢化があるという。
「高齢になってあちこちが悪くなると、専門科の先生だけでは治療がしにくい面が出てきます。例えば、『腎臓が悪いからこの治療法はできません』となると、その科ではできることはないと判断されてしまう。そうなると、総合的に患者さんの状態を把握し、どの治療ならできそうか、そのどれを選択するかを判断する人が必要。そこを担う存在が総合診療医です」
総合診療科が対象とするのは高齢者だけではなく、どの年代でもかかることができる。加齢の影響も出てくる中年期以降の世代にとっては、あちこちの科に行かなくても、総合的に診てくれる存在は頼もしいことこのうえない。
「専門の診療科だと、どうしてもその領域にばかり目がいき、ほかが見えにくくなる傾向がある。その科の見立てに病気がジャストフィットすればいいのですがそうでない場合、『穴』が多くなる。そこを見逃さないのが総合診療医なのです」
が、気軽にかかりやすいかといえば、そうでもない。大病院では総合診療科があっても、近所ではあまり見かけないのが実情だ。
「この科は国が責任を持って総合診療の専門医を育てようと始めて2年。まだまだ医師の数も少なく、認知度も低い。でも、地域の内科のなかにも、総合診療医的な考え方で診察をしてくれる先生はいます。ぜひ探してほしいですね」
《識者PROFILE》
島本 健先生 ◎東京女子医科大学病院 総合診療科診療部長代行。臨床教授。専門は循環器科だが、現在は総合診療医として日々、診察にあたりながら、若手医師の教育にも携わる。
海老澤 尚先生 ◎六番町メンタルクリニック院長。精神科医。不安症、不眠症治療など、多岐にわたる診療経験があり、ひとりひとりの心の悩みに寄り添い職場での悩みやストレスにも理解が深い。