これまでに対応した性依存症の当事者は2000人を超える。うち、痴漢が約800人で最多。次いで盗撮が約400人、強制性交が約200人、児童性愛が約150人だという。
ただし、診断書や裁判目的だけの依頼は断っている。
「性犯罪全体では顔見知りへの性暴力が7割ですが、当院の患者の場合、見知らぬ相手への加害を繰り返してきた人たちが対象。当院の調査では、逮捕歴は平均5回以上。問題行動の開始から逮捕までにかかる年数は平均して痴漢が8年、盗撮が7・2年、児童性愛は14年です。子どもが被害者の場合、何をされたのか理解できず、成長したあとに被害を思い出すことも多く、すぐに事件化しません。
痴漢や盗撮の場合は一見、問題のなさそうなサラリーマン男性が多い一方で、小児性加害者は何らかの障害を抱えるケースもみられます。発達障害の診断がつかないグレーゾーンのケースも少なくない。初診では、重複障害の有無を必ずチェックします」(斉藤さん)
加害者の陰には無数の被害者がいる。同クリニックでは、性犯罪被害者の治療やカウンセリングも行う。
「被害者は自暴自棄となり、不特定多数と性的関係を持つことがあります。自分には価値がないという思いに苛まれていますが、性交渉中は相手から大切にされている感覚もある。そのため性的な関係にはまり込み、依存します。このような性依存症の場合、自殺や自傷のリスクとも密接です」
合意なきセックスで繰り返される被害
性依存症に陥ってから、性暴力の被害に遭った当事者もいる。
接客業の田上真由奈さん(仮名=40代)は25歳のとき、「人と話せることは楽しいんだ」と思うようになり、親しみを感じる相手に依存し始めた。それまでは他人を信用できず、心を閉ざしていたと話す。
高校時代、吹奏楽部の活動を懸命に取り組む中で、うつ状態になった。部活の厳しさに加えて、家庭では門限がうるさく、祖母や母が成績に過度に口を出し、男女関係にも口を挟むなど「監視されている」環境。
だが、社会人になってからは少し自由を感じるように。複数の男性と性的関係を重ね、次第にセックスに依存するようになった。
「今まで甘えられなかった部分をぶつけているようでした。子どもに返ったかのようでした」(田上さん)
ただ、複数の男性と身体を重ねていくうちに、同意のないセックスを何度も経験する。田上さんにとっては性暴力だが、男性たちは理解せず、何度も被害に遭ってしまっている。
「危険とわかっていても、やっぱり性的関係を求めてしまうんです」
性依存症の人たちは周囲の理解が得にくく、孤立しやすい。その現状に沿った支援が求められている。
(取材・文/渋井哲也)
渋井哲也(しぶい・てつや) ◎ジャーナリスト。長野日報を経てフリー。自殺や自傷、いじめ、依存症など若者の生きづらさを中心に執筆。東日本大震災の被災地でも取材を重ねている。近著に『ルポ 平成ネット犯罪』(ちくま新書)