「急に」ではなかった結婚

 オードリー・若林のツッコミは、誰よりも自分に向いてきた。そして誰よりもそのツッコミに戸惑いながら、自分を変えてきた。

 2012年に「女の子苦手芸人」とキャラづけされた彼は、その後の数年間、テレビで女性への苦手意識を吐露してきた。例えば、これまで女性にアプローチし、何回か実際に会って食事もしてきたけれど、途中で猛烈に飽きてしまうという。

「1時間40分ぐらいすると、すごい帰りたくなっちゃって」(フジテレビ系『有吉の夏休み2014』2014年9月6日)。

 そんな「女の子苦手」キャラの肉づけ作業があまり見られなくなるのが、2016年から2017年ごろにかけてだ。ガールズバーに通いつめたという彼は、すでに人見知りが直ってしまっていた。けれど、テレビ番組の企画では、しばしば女性と観覧車で2人きりになる設定が与えられたりする。

 でも、「なんか嘘つくのも変じゃないですか。おじさんがしゃべれないフリしてるって。結局すごいしゃべっちゃうんですよ」(フジテレビ系『もろもろのハナシ』2017年1月8日)。

 女性との距離感を克服した若林は、ひとりで生きることの虚しさについても繰り返し語るようになる。「結婚したい」と明確に口にした彼は、その理由について次のように語る。

「自分のために生きれなくなってくるんですね、おじさんになってくると。自分でおいしいものをひとりで食べてても、誰かに食べさせたくなる」(フジテレビ系『もろもろのハナシ』2017年8月23日)

「女の子苦手芸人」という自分のキャラクターに、若林は誰よりも率先してツッコミを入れ、少しずつ解体してきた。自分に向けてきた意識の矢印自体も、徐々に外側に向け始めた。そんな流れの結婚は、ごく自然な出来事だった。

 なぜ急に結婚する気になったのか。そう問われた若林は、「急にっていうわけじゃ自分的にはないんですけど……」と前置きしたうえで、次のように答えた(テレビ朝日系『激レアさんを連れてきた。』2019年12月14日)

「タイミングが合ったとしか言いようがないんだよね」


文・飲用てれび(@inyou_te)