自殺や病死などを告知するかは業者まかせ
しかし、宅建業法でそのような取り決めは明記されておらず、消費者が契約するかどうかの判断に「重要な影響を及ぼす事実」は告知しなければならないとされているだけ。扱い方は業者任せになっているのが実態だ。
公益財団法人の日本賃貸住宅管理協会は、「その実態を把握する最新調査でショッキングな結果が出た」(担当者)と話す。
昨年4~9月にかけ、会員の賃貸住宅管理会社を対象にインターネットでアンケート調査をしたところ、室内で自殺者が出た物件について消費者に告知していた事業者は74・6%にとどまった。病死や事故死については59・7%が告知していた。
「自殺については事業者の100%が告知しているものと思っていた。初めての調査項目だったが、基本的に殺人や自殺は言わなきゃいけないというのが業界の共通認識。不都合な事実を隠してすり抜けようとする事業者がいるということ」(同前)
調査によると、室内で殺人があったケースでも告知する事業者は64・9%にすぎない。そもそも「重要事項説明を行わない」と回答した事業者も0・7%いた。
前出の担当者は、
「いつまで事故物件であることを告知するかについても、『入居者1回入れ替えまで』が35・1%で最も多かった。次いで『2回入れ替え』と『半永久的』が同率で14・9%。都市部では2年もすれば風評は消えやすいが、過疎地では“あそこは自殺者が出たアパート”などといつまでも忘れられにくい現実がある」
と地域によって異なる実情を明かす。
殺人事件や自殺があった物件を貸すにあたって、その事実を「重要ではない」と都合よく解釈したとしても、「裁判になったら業者はまず負けるはず」(同前)という。業界の健全化に向けても明確な基準づくりが待たれている。
事故物件であることをひた隠して商売する事業者がいる一方、あえてこうした物件を束ねて正直に告知したうえで紹介する事業者もいる。
事故物件専門サイト『成仏不動産』を運営する『NIKKEI MARKS』の花原浩二代表は、ガイドラインづくりに「賛成です」として次のように語る。
「そもそも、少し前に国交省から依頼を受けた民間企業がヒアリングに来られた。そこで“まず第一歩として事故物件の定義をすることが必要ですよ”と提言させていただきました。定義しないことには実態が見えませんから。また高齢者が賃貸物件を借りにくくなるリスクもあり、その対策と両輪で進めていかなければなりません」
成仏不動産では今後、事故物件とひとくくりにせず、「墓地や火葬場に近い」「集合住宅の共用部で死亡したケース」「孤独死72時間以内」「同72時間を超える」「火災などで死亡」「自殺」「他殺」と7つの分類に分ける考え。
また、国交省の担当者も言及していたが、超高齢化社会を迎えて業者は「孤独死」の可能性が高い借主を警戒する傾向にある。告知基準を設けるだけでは、逆にリスキーな借主を“敬遠”する動きを助長しかねないというわけ。