芸能人の不倫スキャンダルがまだ牧歌的だった'90年代、斉藤由貴(53)は当意即妙なボケ返しで2度の不倫を乗り切った経験がある。1度目はシンガー・ソングライターの故・尾崎豊さんと。2度目は川崎麻世と(妻・カイヤが仁王立ちした伝説の不倫謝罪会見)。

キスをしていても“相手なんかどうでもいい”!?

 以降は“魔性の女”という印象も強かったが、2000年代後半はほぼテレビドラマで姿を見せず。ぽっちゃりして帰ってきたなぁと思ったら、見る見るテレビドラマでの露出を増やして、あっという間に身体を絞っていった。

 '10年代はテレ朝の刑事モノのレギュラーを次々と獲得し、三谷幸喜の舞台にも登場(長澤まさみと共演した『紫式部ダイアリー』がめちゃくちゃ面白かった!)。少し不思議でカワイイおばちゃんから、精神的に不安定で不穏な女性など、多彩な役を演じて、実力派女優という立ち位置を着実に固めていったのだ。

 そして、衝撃の不倫写真が文春とFLASHに掲載されたのが2017年。手つなぎデートよりも衝撃だったのは、「相手の男性がパンツをかぶっている」という間抜けさである。そうだそうだ、不倫って間抜けなんだよね、大の大人が理性を失ってこうなるんだよね、と改めて痛感させられた写真だった。もう大笑い。

 さらに、私が最も感嘆したのはキス写真。なんというか、斉藤由貴のすごさを目の当たりにした。キスをしているというのに、彼女の瞳に男性は映っていない。相手なんかどうでもよくて、自分の姿を見つめていることがよくわかる。自己陶酔は女優に欠かせない要素。決して恋に溺れているのではなく、相手に惚れているのでもなく、自分に酔うという技術の結晶を数枚の写真で見せつけたのだ。

 しかしだな、時代は変わった。記者会見でゆるふわっと弁明したものの、世間は'90年代のようには優しくなかった。不倫を許さない人々の大きな声を懸念し、大河ドラマ『西郷どん』は自ら降板したのだ。代わりに南野陽子という、まさかの『スケバン刑事』つながりに、個人的にはちょっと心躍ったけれど。

 相手の男性が一般人で、しかもちょっと痛い人だったおかげで、世間的にはヒートアップせず。大御所のお気に入りという立ち位置もあるし、憑依系・幽体離脱系の演技力には定評もある。ちょっとだけ休んで再び復帰、という形になったのだ。

 正直、本人にとって騒動が痛手だったかどうかはわからない。その後も、フジのドラマ『スキャンダル専門弁護士QUEEN』でも、金持ち男を転がした経験豊富な謎の事務員という役を見事にこなしていたし。

 ここまでくると、悪妻というか悪才。あっぱれ。彼女が還暦を迎えるころにはたぶんみんな忘れているよね、この騒動を。

(文/吉田潮)


吉田潮 ◎コラムニスト、イラストレーター、テレビ評論家として週刊新潮で『TVふうーん録』を連載中。『幸せな離婚』(生活文化出版)、『親の介護をしないとダメですか?』(KKベストセラーズ)など著書多数