私こう見えて超ネガティブ人間なんです
「出演を検討してもらいたいコーナーがあります。TBSに来ていただけますか?」
『王様のブランチ』から連絡があったのは'01年の冬、LiLiCoが31歳になる年だった。テレビ雑誌の「今週の声優」というコラムで好きな映画を挙げた記事が関係者の目にとまったのだ。
「このコラムは何かにつながるかもしれないと思って、ちょっと通っぽい映画を挙げてみたんです。無修正版の『サウスパーク』とサンドラ・ブロック主演のコメディー『デンジャラス・ビューティー』、官能的なスウェーデン映画『太陽の誘い』でした。それを放送作家が見て、この子、映画のことわかっているねと」
面談の帰り道、携帯電話に“映画コメンテーターをお願いします”と連絡が入った。
「そのとき、やったー! と頭の中で『プリティ・ウーマン』の主題歌が大音量でかかりました。でも今ほど日本語もしゃべれなかったし、日本の映画のことはまったく知らなかったので、さてどうやって紹介する!? と。毎週落ち込んで、放送後はすぐ家に帰って寝込んでました。お前、下手くそって言われるんじゃないかって、コワくて外に出られなかったんです。自分の実力を思い知らされて、ただテレビに出たいとばかり言っていたことが浅はかに思えました。
私こう見えて超ネガティブ人間なんですよ。私の中でのどん底は、よくホームレス時代だと勘違いされるんですが、まさにこの時期。思うようにやれないつらさを知っているから、頑張れるんです。大きな仕事が決まって初めて、みなどれだけ裏で努力しているかに気づきました」
邦画のDVDを片っ端から見て、俳優の名前を覚えた。洋画も最新作に関連する過去作をすべて見返したという。
今も週に20本以上、映画を見てどれを紹介するか選ぶ。そして1分のテレビ解説や1ページの原稿のために膨大な時間をさいている。
「映画は食べものと一緒で好みがありますし、味わい方は人それぞれ。ただ単に怒りを持っている人が銃をぶっ放すシーンでストレス発散するのもいいし何げなく見た作品のひと言が心に響いて残るかもしれないし。だからこういうふうに見たら楽しめますよとか、こういう気分ならこの映画はどうでしょうっていうふうに、入り口を教えてあげる映画ソムリエみたいな存在でいたいと思っているんです」
たくさんの映画を通して、どん底に落ちる人生や恋愛、友情、親子関係、そして死を学んできたというLiLiCo。長年苦しんできた母との関係性を、作品に重ねることもあった。
'12年に亡くなった母は心の病を抱えていた。まだ幼かったLiLiCoに当たり散らし、「お前は世界一バカな子だ」とよく罵ったという。
晩年は統合失調症を患い、自殺願望の電話やメールなども頻繁に寄こすようになっていった。
「最後までわかり合うことはできませんでした。何でもっとうまくやれなかったのかと思うんですが結局、私の人生での母との関わり方はこういうことだったのかなと思っています。今になってわかるんですが、強くないと海外ではやっていけないんですよ。まだ日本のほうが暮らしやすいと思いますが、スウェーデンは大きな会社に入らないと仕事がないですから。母は知らない土地で2人の子を育てて、すごく頑張ったんだろうと思います」
葬式で母の友人が「親友として最高の人だった」というスピーチをした。その言葉に救われたという。