取材対象の本音を知るのは記者の仕事だ
ちなみに、多くのまともな記者は必要であれば取材対象に食い込んで懐(ふところ)に飛び込むし、表に出てこない情報を得て本音を知るために、相手が権力者であろうとなかろうと、一緒に飲食し麻雀やゴルフに興じることもある。もちろん、娯楽を楽しむこと自体が目的なのではない。相手との会話を重ねるなかでさまざまな話を引き出し、隠された“真実”を入手するのが目的だ。そうやって得た重大な情報を、何らかの形で広く世間に知らせるのが、記者の仕事のひとつだ。
外出自粛要請期間中に新聞記者が黒川氏と賭け麻雀をしたからといって、それが本当に必要不可欠な“取材”であるならば、また、権力を監視するために重要な取材行為の一環であるならば、記者側は「お詫び」する必要なんかまったくない。
重要なのは、記者として伝えるべき真実をきちんと書くこと。取材対象と親しく付き合うにしても、超えてはいけない一線を画したうえで、読者や視聴者(主権者たる国民)にとって必要な判断材料をしっかりと記事に記すことだ。それができてさえいれば、やましいことは何もないはずだ。
5月14日の記者会見でも安倍首相は、検察庁法改正案をめぐる記者からの質問をいつものようにはぐらかし、しかも説得力のある根拠を何も示すことなく「三権分立が侵害されることはない」「恣意的人事が行われることはない」などと、平然と大ウソを並べることに終始した。もちろん「なぜ今、この時期に検察庁法改正を強行しようとするのか」についての説明もなかった。
検察庁法改正案の成立は四方八方からの抗議を受け18日、ついに「見送り」となった。だが、継続審議となっただけであり、秋の臨時国会では再び議論される見通しだ。黒川氏、そして首相が逃げ続けているうちは、根本的な問題は何も解決しないのである。こうした安倍政権の姿勢こそが、厳しく問われなければならないはずだ。
【プロフィール】
池添徳明(いけぞえ・のりあき) ◎埼玉新聞記者・神奈川新聞記者を経て現在フリージャーナリスト。関東学院大学非常勤講師。教育・人権・司法・メディアなどの問題を取材。著書に『日の丸がある風景』(日本評論社)、『教育の自由はどこへ』(現代人文社)、『裁判官の品格』(現代人文社)など。