やはり今回の活動自粛は、「問題行動のあった個人を甘やかし、繰り返させたことで、組織全体のイメージを悪化させ、そこで働く人々が不満を抱えてしまった」という典型的なパターン。組織の管理職が1度目のときにはっきりとイエローカードを出し、2度目はレッドカードを出すことを毅然とした態度で伝えておかなければなりませんでした。
少なくとも問題行動が続いた5年前や3年前の時点でそれができていたら、その後スキャンダルのない手越さんは、現在をはるかに上回るスターになれていたかもしれません。管理職の指導1つで社員の未来を広げることも狭めることもあり、その意味で現在の手越さんは自らのポテンシャルを十分に発揮できていないのではないでしょうか。
特にジャニーズ事務所は管理職に加えて、先輩タレントの層が厚く、手越さんにとっては学べる存在が多かったはず。そんな頼れるはずの先輩たちから「突き放されていたのか」、それとも手越さん自身が「距離を取っていたのか」は分かりませんが、成長や才能開花のチャンスを逃す要因となっていることが悔やまれます。
「自由を求めるなら独立しろ」の正論
ここまで芸能事務所や一般企業などの組織目線で書いてきましたが、視点を個人に変えると、手越さんの煮え切らない思考回路が浮かび上がってきます。
活動自粛の報道を知った人々から、「そんなに自由がほしいなら事務所を辞めればいいのに」「他の所属タレントと足並みを揃えられないなら独立したほうがいい」などの声が挙がっていました。それらの声はまさに世間の声であり、手越さんから見たら言い返せない正論。「これまでどんなスキャンダルを起こしても事務所に守られてきた」ことを知っているからこそ、「大きな組織で甘い汁を吸いたいのなら、社や同僚に迷惑をかける自由気ままな振る舞いはするな」と言いたいのでしょう。
これは一般企業も同じで、手越さんのように自由気ままな振る舞いは、よほどの成績を挙げる社員でない限り許容されません。自由気ままに振る舞って社のイメージや同僚のモチベーションを下げてしまうことは認められず、独立して起業する道を選ぶ潔さが求められているのです。
しかし、手越さんは新型コロナウイルスの影響が深刻化してもジャニーズ事務所に所属したまま、問題行動を繰り返してしまいました。だからこそ世間の人々は、「毅然とした対応をした滝沢さんには好感が持てる」「タッキーがいる限りジャニーズ事務所はこれからいい会社になるかも」などと、処分を決めたとみられる滝沢秀明さん(ジャニーズ事務所副社長)を称えるコメントを発しているのでしょう。やはり管理職の決断には、「遅かったとしても、するべきことがある」「負の流れが続いていたのなら、それを断ち切る勇気が必要」であり、引いてはそれが組織のイメージを回復させる第一歩となるものです。
ただ、「ほとぼりが冷めたら、またシレッと復帰させるんでしょ」「腐ったリンゴは早く取り除かないと周囲まで腐敗しかねない」などの辛らつな声も多く、不信感を払拭し切れたわけではありません。手越さんとジャニーズ事務所は、今後も引き続き注目を集めていくでしょう。
木村 隆志(きむら たかし)コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者
テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。