いじられたからといって、愛されているとは限らない。
長期政権を樹立したばかりの安倍晋三首相が辞任を表明したが、思い起こせば、これほど芸能人にいじられた首相も珍しかった。約7年半という長期政権ゆえ、各所でハレーションを起こすことも無理のないことだろうが、身内やその周囲をえこひいきにする安倍首相は、ツッコミどころ満載の存在だった。
歌手の小泉今日子は、東京高検検事長の賭けマージャン騒動の際、安倍首相を同情し「こんなにたくさんの嘘をついたら、本人の精神だって辛いはずだ。政治家だって人間だもの」と、書家の相田みつをばりにツイートした。演出家でタレントのラサール石井は「トップの評価は長時間働いた事より『どんな仕事をしたか』で決まる」と、最近こき下ろしたばかりだ。
さかのぼればタレントのマツコ・デラックスは「安倍ちゃんなんてバカの象徴じゃない?」(2017年TOKYO MX『5時に夢中!』)と、冷や冷やもののコメントを発信。タレントのほっしゃんは「安倍さん。お辞めください!」と、加計学園の問題が噴出した際、辞任を迫ったことがある。その際、こう付け加えることを忘れなかった。「売れっ子さんは誰も言われへんて」。
売れている人間は、えてして体制べったりになりがちだが、売れっ子たちは安倍首相に近寄り、それが逆に人気取りに利用された。
ジャニーズ事務所のTOKIOのメンバーは安倍首相とピザを食った。俳優の大泉洋と高畑充希は首相官邸に招かれ会食をした。ダウンタウンの松本人志や東野幸治、指原莉乃らフジテレビ系『ワイドナショー』の出演者も、安倍首相と飯を食った仲。安倍首相自ら吉本新喜劇の舞台に出演し、耐えられない軽さを見せつけたこともあった。
小泉純一郎元首相は、歌舞伎が大好きで歌舞伎座に足を運んでいたが、そういった芸能への愛を安倍首相から感じられることはなかった。
安倍首相が芸能人を利用した最たる場面
各所で勢力化していた安倍応援団が芸能界にも確かにあり、一方で安倍政権の無策にあきれる「I'm not ABE」の芸能人もいた。そのような人たちに安倍首相はイジられ続けたが、そこには愛はない。安倍首相は、使える芸能人を政治利用しただけのこと。その最たる場面は、ジャニー喜多川氏のお別れ会に弔電を送ったことだ。
そこには個人的な交流の一端が、どんな些細なことでも明かされることがなく、弔電が単なるセレモニーであることを印象づけた。スピーチライターがいれば、誰もがこしらえることができる作文だった。
ジャニーさんの死さえ政治利用した安倍首相。その存在の耐えられない軽さが、権力の中枢から消える。
新安倍政権、アンチ安倍政権の芸能人は、政権が変わろうが「ショー・マスト・ゴー・オン」を貫くだけだ。
〈文/薮入うらら〉