殻がバリーンと割れる音が聞こえた
小・中学校は地元の公立校に通った。小学4年に進級してすぐのこと。それまで普通に友達と遊んでいたのに、急に誰にも話しかけられなくなってしまった。
「人見知りでも、根暗でもないのに、なんででしょうね。自分でも不思議なんですけど、“入れて”と声をかけるタイミングがつかめなくて。誰とも遊んでいないことをいじられるのも心外だったので、昼休みは女子トイレにずっといたんです(笑)」
クラスでほとんど発言もできないまま3年間が経過。卒業前の謝恩会で佳恵さんは思い切った行動に出る。シンデレラの劇をやることになり、主役に立候補したのだ。
「やらなければいけない状況に自分から追い込んだんですけど、演技うんぬんの前に、大きい声が出せなくて……」
途中で辞退したいと泣いて訴えたが許してもらえず、毎日、体育館のステージの上で声を出す練習をした。反対側にいる人には1度も声が届かず、クラス全員が不安なまま迎えた本番当日──。
「ものすごく大きな声が出せたんですね。自分で勝手に作った殻がバリーンと割れる音が私にも聞こえました。もう、次の日から“シンデレラとお呼び”というキャラに激変ですよ。アハハハハ。
荒療治だと自分でも思います。でも、それがきっかけで、自信がついたんでしょうね。やればできるという人間になれた気がします」
それまでの不本意な時間を取り戻すかのように、中学以降は活発になった。妹の実穂さん(45)は、当時の佳恵さんの口癖を覚えている。
「本当に直感でパッと動いて、“あとは何とかなる”と、よく言ってました(笑)。それに昔から度胸があるんですよ。
8階建てマンションの屋上でボール遊びをしていて、ボールを取りにお姉ちゃんが1・5メートルくらいある柵を乗り越えてしまったことがあって。柵の向こうには溝しかなくて足を踏みはずしたら真っ逆さまです……。おばあちゃんに見つかって、こっぴどく叱られましたけど(笑)」
芸能界への扉が開いたのは'90年。高校2年の夏だ。
渋谷に水着を買いに行き、セールの知らせと勘違いして、映画のオーディションのチラシを受け取った。読んでみるとグランプリ受賞者にはフロリダのディズニーワールドにペアで招待と書いてある。
「映画に出たいとはチラとも思わず、フロリダ目当てで応募したんです。それで、グランプリをいただいて、チケットはもらえたけど、時間はもらえなくて。金券ショップで売りました(笑)」
簡単にグランプリと口にするが、ちょうどバブル景気まっただ中で、応募総数は全国から3万1009人!
佳恵さんはセールで買った水着を着て、ふざけたポーズの写真を送った。書類審査で落とされかけたが、「こんな子がいたら面白いかも」とギリギリで合格したことを、受賞後に教えてもらったそうだ。