家も心もいい風が吹き始める
育児書が頼りだが、例えば「15分間授乳」と書いてあれば、デジタル時計とにらめっこ。15分が過ぎておっぱいから離したら大泣き! 本に書いてあるとおり一生懸命やるほど、うまくいかない……。
空良君は音に敏感で、ベッドに寝かすと泣くので、ずっと抱っこしたまま。ピリピリする佳恵さんの感情が伝わって、よけい寝ない悪循環に陥る……。
心配した母の悦美さんが店の休憩時間に食事を持ってきてくれた。母がいる間、佳恵さんもウトウトはするが、空良君が泣くと起きてしまう。
ある夜のこと。仕事を終えて帰宅した夫の顔を見て、佳恵さんは財布と携帯を手に家を飛び出してしまった。
「“ただいまー”のまの字の後に、音符が見えたんですね。それで腹が立って“あなたはいいよね。外で好きなことして。もうイヤだ! 何もかも捨ててやる!”と(笑)。
全然、彼は悪くないんです。私がノイローゼになりかけていておかしかったのに、おかしいと否定せず受けとめてくれた。それが何より助かりましたね」
よどんだ空気を吹き飛ばしてくれたのは湘南の風だ。
空良君が9か月のとき藤沢市に引っ越した。サーフィンが趣味で藤沢に住んだことのある夫の提案だったが、おかげで佳恵さんは本来の自分を取り戻すことができた。
「マンション2階の部屋にベッドを運び入れるのに苦労していたら、住人の方が何人も出てきて手伝ってくれて。その夜はうちで宴会です(笑)。東京では知らない人に指をさされるのがイヤで帽子をかぶらないと外出できなかったのに、こちらの人は垣根がなくて、帽子をかぶる隙を与えてくれなかったんですよ(笑)」
空良君を保育園に入れるとママ友ができて、気持ちに余裕が生まれた。
会社員の伊藤さつきさん(50)はママ友1号。息子のお迎えがいつもギリギリで、同じ時間に来る佳恵さんと自然に話をするようになった。伊藤さんには2歳上の子もおり、先輩ママとして育児の悩みも聞いたという。
「空良君が泣きやまないと気にしてたから“そんなものよ。うちも泣きやまないからベッドに放っておいたよ”と(笑)。佳恵ちゃんはご飯作りも苦手で、レシピどおり作れないと悩んでいたので“適当でいいのよー”と。根がまじめなんじゃないですかね」
保育園帰りには、もう1組仲のいい親子を加えた3組でスーパー銭湯に行ったり、佳恵さんの家に集まったり。伊藤さんたちが手早く夕飯を作る間に、佳恵さんが子ども4人を風呂に入れてくれたそうだ。
「遊び疲れて子どもが寝ちゃったらそのまま預かってもらったり、佳恵ちゃんがドラマの収録で泊まりのときは空良君を預かったり。長屋の大家族みたいな感じで過ごしました。彼女もここでは心を開いていて自然体なので、誰も芸能人扱いはしないですね」