意外すぎる配役で視聴者を刺激
これだけの“主演クラス”俳優をチョイ役に起用するのはなぜなのか。コラムニストのペリー荻野さんは、話題性を狙ってのことだと指摘する。
「『半沢直樹』は、“どういう人が出たら面白いか”が緻密に考えられています。堺さんが半沢直樹という強烈な主役をやる以上、それに見合ったキャラクターをそろえなくてはいけません。人気や知名度よりもジャンルを問わず“幅の広い”キャストを起用することで、演技の相乗効果が生まれ、視聴者の興味が途切れないようにしています」
一見“逆張り”とも捉えかねないやり方だが、舞台などで実績を残している俳優に大役を任せれば、ドラマの質は確実に上がる。
「逆に、顔が知られている俳優を少ししか出さないことで“もっと見たい!”という刺激を与えています。制作サイドは7年間、いろいろな分野で活躍している演者さんたちをチェックしていたんでしょうね。大物俳優の出番が少ししかないというのは、一歩間違えれば怒らせてしまう危険性もあります。ただ、『半沢直樹』のようなドラマには何としても出たいというのが人情。大河ドラマのように、贅沢な作りができる貴重なドラマです」(ペリーさん)
テレビ・ドラマ解説者の木村隆志氏は、プロデューサーに着目した。
「このドラマの成功がキャストの方々の熱演に支えられているのは間違いありません。それに加え、プロデューサーを務める伊與田英徳(いよだひでのり)さんの力が大きいと思います」
ドラマの立ち上げから関わり、スタッフ・キャストの選定や予算管理など、制作全般に責任を持つのがプロデューサーの仕事だ。
「伊與田さんは『ブラックジャックによろしく』や『ヤンキー母校に帰る』など、多くのヒットドラマを手がけてきました。'13年に『半沢直樹』が成功してからは、同じ『下町ロケット』『ノーサイド・ゲーム』といった、池井戸潤さん原作のドラマを次々に送り出しています」(木村さん、以下同)
彼が関わるドラマには大きな特徴があるという。
「業界随一のキャスティング力ですね。'17年の『陸王』では、元テニスプレーヤーの松岡修造さんを起用。同じ年の『小さな巨人』には歌手の和田アキ子さんなど本職が役者ではない方を重要な役に抜擢し、ネット上の反響を意識した確信犯的な戦略です」
神ワザ的ともいえる起用は、原石を見つけ出すことも。
「滝藤賢一さんと吉田鋼太郎さんは、'13年の『半沢直樹』に出演したことで、全国区の人気俳優となりました」
伊與田氏が深く関われるのは、原作者から厚い信頼を寄せられているからだ。
「『帝国航空編』の原作にあたる『銀翼のイカロス』には大和田取締役が出てきませんが、香川照之さんの出番を作るため、台本に新たな場面を付け加えたんです」
役者の演技に負けないくらいスタッフの熱量も高い。
いまの高視聴率には理由があるのだ。