今や芸人のドラマ出演はない作品のほうが少ないくらいになったが、やはり漫才を主戦場にしている漫才師と、コントにこだわるコント師では持ち味が異なる。後者の岡部は、セリフに頼るのではなく、全身でキャラクターとシチュエーションを表現しようとするタイプ。その表情や動きで感情を伝えられるだけに、むしろコントよりも長尺でじっくり演じられるドラマのほうがスキルを発揮できるかもしれない。

 また、最近の連ドラは『半沢直樹』(TBS系)や『M 愛すべき人がいて』(テレビ朝日系)を見ればわかるように、過剰気味の演技に対するニーズが高く、岡部のようなコント師たちの演技はうってつけ。同じトリオのコント師である東京03のエースでボケ担当の角田晃広が『半沢直樹』の序盤を盛り上げたことからも、それがわかるだろう。

先輩の原田泰造、塚地武雅を超えるか

 岡部は『エール』出演が発表されたとき、「事務所の先輩で、トリオとしてもあこがれているネプチューンの(原田)泰造さんみたいにお芝居もできる芸人を目指していきたいなと思っています」というコメントを寄せていた。

 俳優業への意欲を隠さず、「全身全霊で挑んでいます」とストレートかつまじめに言い切るところはいかにも岡部らしく、各局のドラマプロデューサーたちが積極的に起用したくなるのはこういうタイプ。特にNHKは自局のドラマに出演させた俳優を続けて他作にキャスティングしていく傾向があり、そもそも昭和が舞台の作品が多いだけに、すぐにチャンスが回ってくるのではないか。

 一方、民放のドラマに目を向けると、コメディでなくても「ヘビーなムードになりすぎないために笑いのシーンを挟む」ことがセオリーになってひさしい。その点、岡部のまじめで一生懸命さを感じさせるビジュアルは好感度が高く、そのイメージを生かすのはもちろん、民放のドラマならギャップを生み出す悪役のオファーも期待できるだろう。

 岡部が憧れる原田泰造は、ドラマではコントのときに見せない種類の演技を次々に見せて、俳優としての評価を高めていっただけに、岡部にもその再来が期待される。あるいは、タイプとしては原田泰造よりも、ドランクドラゴン・塚地武雅のような俳優になるかもしれない。

 現在、さまざまな職業の役柄を演じやすい31歳という年齢であること、『THE突破ファイル』(日本テレビ系)の再現ドラマで見せる演技に視聴者が引きつけられていること、『有吉ゼミ』の大食い企画「チャレンジグルメ」でガッツを見せたことなどの細部も含め、とにかく業界内の評判がいい。

 あくまでコント師としての活動がメインであることは変わらないが、『エール』での熱演を経たそう遠くないうちに、芸人トップクラスの売れっ子俳優になるのではないか。

木村隆志(コラムニスト、テレビ解説者)
 雑誌やウェブに月間20本強のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などに出演し、各番組のスタッフに情報提供も行っている。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもあり、主要番組・新番組、全国放送の連ドラはすべて視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。