こうして、不信感を募らせた雅子さんは、国と佐川氏を相手に裁判を起こした。
「生きていることがすごくつらくて、死にたいと何度も思いましたが、私には夫が残してくれた手記がある。だから、いつか出さないとダメだっていう気持ちがわいて“この裁判が終わるまでは絶対に生き抜きたい”と思えました。とにかく“本当のことを知りたい”。この一心がいま、生きるうえでのいちばんの支えになっています」
そして、俊夫さんは手記だけではなく「公文書の書き換えに関する詳細なデータを残していた」と雅子さんは言う。
「職場のパソコンなのか手書きなのかわからないですけど、どんなことが起きていたか、詳細を残しているというのは本人から直接、聞いています。直属の上司の方がいらしたときにも、そのデータの存在をちゃん証言してくれたので、間違いなくあります。でも、それをオープンにして調査をしてくれない。また、夫の死について公務災害が認められたので(仕事に関係する)個人情報の開示を請求しても、人事院からは真っ黒なものが返ってきました。遺族が知りたいことさえも明かされないっていうのは、やっぱりひどいと思います」
雅子さんは、政治家に対して、どのような眼差(まなざ)しを向けているのだろうか。
「政治家だからとかじゃなくって、人間としてきちんと対応してほしい。再調査をしろと命じれば物事を動かせる立場の方がそう言ってくれないということは、その方がもっとも再調査をされたくないのかな、と感じます。もし、その方の言動で今回のことが起こったのであれば、夫に手を合わせて謝罪してほしい。それだけが望みなので。言葉は悪いですが、安倍(晋三)さんは病気で退陣できるけれど、夫はうつ病になってもやめられなかったんですね。だから、病気で逃げられる立場の人とそうでない人がいるということを、上に立つ人は自覚してほしい。安倍さんが国会議員を続けるのであれば、今後も本当のことを話したり再調査を促したりする機会はいくらでもあるはずなので、逃げないでもらいたいです」
最後に、私が「こんなことを申し上げるのは失礼だと思いますが、佐川さんの奥さんより、赤木さんの奥さんのほうが幸せですね」とお伝えすると「本当にそう思います」と即座に答え、涙を流された。2人の愛の深さを感じた。
「夫が今の私を見たら、びっくりすると思うんです。社会に対してこんなふうに発言するような人間ではなかったし、裁判をするなんて想像もつかないはずなので、喜んでくれているかと。夫には22年間、本当に大事にしてもらって幸せでした。次も同じ人生の繰り返しでもいいので、また夫と会って結婚したいし、もし今ここにいたら“とにかく、よく頑張ったね”って、背中をさすってあげたい。今でも毎日“結婚してよかった、出会えてよかった”って、夫に感謝しています」
安倍前首相は、辞任会見で「森友問題は世論が決めること」と言った。世論調査でも、森友の再調査を望む声は過半数を超えている。安倍元総理をはじめ、政治家がどこまで関わっているかは明らかになっていない。だからこそ、関わっていないのであれば再度、国民が納得する形で調査をすべきだろう。自分の名誉のためにも、そうしてほしい。苦労人でも、病気持ちの人でも総理になれる。それが民主主義だ。でも、だからといって、その人たちが都合よく逃れていいわけではない。
雅子さんは「たかまつさんのような若い方に発信してもらえて、夫もうれしいと思います。夫のことや、こういうことがあったという事実を多くの方、特に若い方に、ぜひ知ってほしい。みなさんの声があれば、再調査に向けて動いていただけると信じています」と話してくださった。「ただ、真実を知りたい」いう彼女の思いに報いるためにも、関係者らにはしっかりと責任を果たしてほしい。
(取材・文/お笑いジャーナリスト・たかまつなな)
【INFORMATION】
Youtube『たかまつななチャンネル』では、赤木雅子さんへのロングインタビュー全編を公開。最愛の夫・俊夫さんとの秘話や森友学園問題に対する胸の内などを、真摯に語り尽くしてくれました。 URL→https://youtu.be/M6o0D92ESRU
【森友】公文書の改ざんを命じられ自殺。「夫の全部が好きでした。」遺書で告発した夫のために妻は闘う。【赤木雅子さん独占インタビュー】 https://t.co/UyyjHyi5f0 より #赤木さんに真実を pic.twitter.com/K2iWFDDLuu
— たかまつなな/時事YouTuber (@nanatakamatsu) September 27, 2020