以前、ある芸人に取材したとき、全員とは限らないものの、俳優には、舞台で毎日同じ芝居を繰り返すとき、その日その日、で違う感情が湧くことを大事にする人がいるが、芸人は同じネタを毎日、どんな状況でも揺るぎなくやる訓練をしているものだと言っていた(大意)。これは俳優と芸人の違いを考えるとき、念頭に入れておきたい極めて興味深い発言である。
今、ここでこの例を挙げたとき思い浮かんだのは、亡くなった志村けんである。彼こそ、“バカ殿”や“変なおじさん”というネタをじつに長く続けていた。後輩芸人たちにもひとつのネタを続けるように助言していたと聞く。さらに、自身の素顔を見せるような芸をやらないようにしていた。素顔を隠して徹底的にキャラクターを演じきることで、人々の心に消えることない強烈なキャラクターが生まれたのである。
志村は、晩年、NHKのコント番組「となりのシムラ」で“変なおじさん”のようなイロモノでないナチュラルなおじさんを演じたり、映画「鉄道屋(ぽっぽや)」(1999年)に次いで2度目の俳優出演となった朝ドラ「エール」で、悪役か?と思えるような苦み走った役(山田耕筰をモデルにした巨匠の作曲家)を演じたりして、これから新たな領域に向かいそうな矢先、コロナによる突然の死によってその可能性は絶たれた。
もし、存命だったら俳優としての活動も増えたであろうかとも惜しく思うが、彼がつくりあげてきた唯一無二の“バカ殿”や“変なおじさん”は永遠だ。
50代に入った原田がどんな「はぐれ刑事」を演じるか
一方、はぐれ刑事の藤田まことは俳優ながら、永遠のキャラクターを作り上げた。藤田は旅芸人の一座から出てきてテレビや映画で愛されるようになったのは喜劇役者としてだった。
代表作は、昼はうだつのあがらない同心で、夜は悪人を討つ殺し屋稼業の「必殺仕事人」(テレビ朝日系)の中村主水。「はぐれ刑事」はその次の当たり役である。コミカルな部分と意外性のギャップが受けた必殺仕事人から罪に対する人情という1点にぐっと絞り込んで愛されたはぐれ刑事にシフトチェンジしていった。どちらの役も長く演じ続けることで、強度を増していったのだ。
原田泰造は、今年2020年、50代に入った。「はぐれ刑事」によって、これまでの原田泰造の実直でユーモアがあるイメージをさらに積み重ね盤石にするのもいいだろう。あるいは伝説の刑事を受け継ぐことで、さらなる俳優としての飛躍につながるか。いずれにしても原田泰造のこれからが楽しみである。(文中敬称略)
木俣 冬(きまた ふゆ)コラムニスト 東京都生まれ。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。