自分で何かしなきゃ、という考えが間違っていた

子どものころ、俺ってなんのために生まれて、なんで存在してるんだろう、と悶々としてました。でも、子どもができたとき、はっと気づいた。

 俺はこいつらを生み出すために生まれてきて、存在しているんだって

 生まれたときがスタート、死ぬときがゴールとしたら、すべてを一人で走り切らなきゃと考えるなんて、しんどいだけ。前の走者からタスキを受け取って、次の走者に渡す。そう、リレーだと思えばいい。

 俺はダメでも、こんなにたくさんの子がいるんだから、どの子かは何かやってくれるでしょそのとき、それは俺がいたからだと思えば自分が納得できる。もし子どもたちができなくても、孫がいる。孫が何かやってくれたら、それはこの祖父がいたからだ、ってね。こんだけ子どもと孫がいりゃ、やってくれる確率は高まるよ。

 自分で何かしなきゃ、と自分を追い込むのが間違い俺はタスキを渡すだけでいい、そう考えたら楽だよ。ひがむことも、妬むこともない」

 やっぱり彼の名前は、ビッグダディ。ニックネーム、芸名、としてだけでなく、もはや職業がビッグダディ

同世代のふたり。子育てや老後など話はつきなかった 撮影:齋藤周造
同世代のふたり。子育てや老後など話はつきなかった 撮影:齋藤周造
【写真】お孫さんを抱いて、優しい“おじいちゃん”の表情になるビッグダディ

 いま現在は、新型コロナウイルスのなかなかおさまらない状況などによって、楽観的な人でもつらくなることは多い。そんな人みんなに、ダディの本から一節をお借りしておく。

今は若いうちからうつになったり、自殺したりする人が多い時代だけれど、人生で何かを成し遂げようと焦るからじゃないかな自分の場合は、“何者でもないんだ”とわかってから、急に目の前が明るくなりました

 親にならなくても、子どもという存在がなくても、そのことに気づく人はいっぱいいるでしょう。けれど、俺にそれを気づかせてくれたのは子どもたちでした。

 人生は駅伝だそう思えば、笑っちゃうほど楽しくなります

 ちなみにダディ、テレビ放映が終わった後も何人かと結婚離婚を繰り返し、いま現在は法的には独身なのだが。かなり衝撃的な告白を、されてしまった。

実は、6年くらい続いている相手がいるんですよ。俺が沖縄でジンギスカン屋をやっていたときも、遠距離で付き合ってましたね。いろいろあって表には出せないけど、彼女とはキスだけなんです。休日に公園でデートしたりね。

 彼女、ロシア人でシングルマザーなんですよ。仕事で来日して、日本人と結婚して、離婚して……。結構苦労してきたから、いろいろ躊躇しているんです俺は彼女の気持ちがわかるから、一緒には暮らさないでも、ご飯は作ってあげているんですよ。彼女の子どもも可愛いしね。あ、その前の彼女はグルジア人だったんだけどね」

 あのビッグダディが子づくりをしないなんて、と誰もが驚くだろうが。しかもお相手は外国の方とは。

 とはいえ、互いに子どもを望んでないからそのような仲にはならず、しかし一緒にいて楽しいから関係を続ける。

 やはりダディは、ちゃんと筋は通っているのであった。

●特別寄稿 作家・岩井志麻子
いわい・しまこ 1964年、岡山県生まれ。少女小説家としてデビュー後、『ぼっけえ、きょうてえ』で'99年に日本ホラー小説大賞、翌年には山本周五郎賞を受賞。2002年『チャイ・コイ』で婦人公論文芸賞、『自由戀愛』で島清恋愛文学賞を受賞。著書に『現代百物語』シリーズなど。最新刊に『業苦 忌まわ昔(弐)』(角川ホラー文庫)がある。

居酒屋「Delimu (デリム)」 https://delimu.jp/ 電話・03-3644-3333