NHKに問い合わせた結果
1973年、『神田川』が160万枚の大ヒットとなった南こうせつ率いる「かぐや姫」は、その年の紅白に内定していたという。しかし、2番の歌詞にはこんな表現が出てくる
《貴方はもう捨てたのかしら 二十四色のクレパス買って 貴方が描いた私の似顔絵》
デデーン! 「クレパス」 アウト〜! このクレパスというワードが『株式会社サクラクレパス』の商品名にあたるとして、NHKは「クレヨン」と一般名詞への変更を要請。それに対し、南はなんと出場を辞退したのだという(『女性セブン』2012年1月5・12日号)。なんたるこだわり、すさまじいフォーク魂である。
しかし、なかにはルールが曖昧になったケースあるようで、こちらは2000年に『ボーイフレンド』で紅白に初出場したaiko。そのサビの始まりはこうだ。
《Ah テトラポット登って てっぺん先睨んで 宇宙に靴飛ばそう》
「テトラポット」アウト〜! こちらもNHKルールにのっとれば「Ah 消波ブロック登って〜」に訂正しなくてはならないはず。しかし、紅白当日では、高らかにテトラポットと歌い上げるaikoの姿が……。
お気づきだろうか。アレの正式名称は「テトラポッ“ド”」で、aikoの歌詞はなぜか「テトラポッ“ト”」表記になっているのだ。つまり、一文字違いでセーフ。「じゃあ何に登ってたんだよ」となるわけだが、ちょっとしたミスというか、国語力の差で切り抜けられるケースもあるようだ(もしかして紅白対策?)。ならば瑛人も《ドルチェ&ガッ“パ”ーナの香水》と歌詞を間違えればアリになるのか、どうだろうか。
疑問な点はほかにも。例えば山口百恵の『プレイバック Part2』の歌詞はのっけから《緑の中を走り抜けてく真紅(まっか)なポルシェ》と、高級外国車が耳を通り抜けていくのだが、当時、NHKの音楽番組では《真紅なクルマ》と改変して歌われていたという。しかし、現在も映像で確認できるが、1978年『紅白』で紅組の大トリを務めた際はなぜかガッツリ《真紅なポルシェ》と発音しているのだ。この年、まさかの10代でトリを務めるという尋常じゃない持ち上げられかたをした百恵ちゃん。“出場をお願いする”ほどの立場ならルールを無用にできるのか。どうなんだ。
そんなこんなで、今年の日本音楽界の“顔”であるニュースター・瑛人は「ドルチェ&ガッバーナ」を公共の電波に乗せることができるのだろうか……! 編集部からNHKに問い合わせてもらったところ、返ってきた回答はただ一言、
《仮定のご質問にはお答えしておりません》
では、当の本人である瑛人は「もし紅白に出られたら、そして歌詞どうなるのか問題」についてどう考えているのだろうか。コメントをいただくことに成功した。
《紅白出場は、夢みたいなお話です。まずは今の活動、ひとつひとつに向き合うのに手一杯で……。こうして名前をあげていただけるだけで嬉しい限りです。フレーズに関しても、プランはございません。我々の判断ではございませんので、決められた判断に従うつもりです》
あまりにフレッシュで真っ直ぐな回答に感動を覚えた……のが今年7月のこと。今回、紅白出場が見事決定し、《仮定の話》でなくなった今、改めてNHK広報に問い合わせたところ、このような回答が返ってきた。
《現在、演出内容について交渉中のため、お答えしかねます》
実にうまいかわし方である。これで10月にリリースした新曲『ライナウ』のほうを歌わせたら日本中がひっくり返るぞ。
〈皿乃まる美・コラムニスト〉