孤立が事件を生む
ふたつの事件の家族は一定の社会的地位を有し、だらしのない家族ではなくむしろ厳格な家庭だった。子どもを厳しく躾けているが、子どもの抱える悩みには無関心。また、家庭で性の話題はタブーとされていた。
このような家庭は少なくないかもしれない。思春期の子どもが抱える悩みは複雑で、すべてを家庭で解決することは不可能である。
事件を起こした女性たちは会社や学校で孤立しており、頼れる存在が「男性」しかいなかったのだ。
ふたつの事件は都市部ではなく人口の少ない地方で起きているが、未婚の女性が産婦人科に行くとすぐ噂になると言われているような地域で、相談できる機関もなく、女性へのサポート体制は脆弱だった。
11月は、外国人女性による乳児遺棄事件も続いた。12日、東広島市で技能実習生のベトナム人の女性が生後間もない赤ちゃんを遺棄したとして逮捕された。19日には、熊本県芦北町で働くベトナム人の技能実習生の女性が、新生児2人を自宅に遺棄したとして逮捕されている。適切なサポートに繋がることができなかった結果であることは間違いない。
乳児遺棄事件の「加害者」となる女性は、いずれも社会的な差別を受けやすく、周囲のサポートが弱い人々である。事件を起こした女性や家族を追いつめても同様の事件を防ぐことはできない。背景に何があったのか、原因究明が求められる。
阿部恭子(あべ・きょうこ)
NPO法人World Open Heart理事長。日本で初めて犯罪加害者家族を対象とした支援組織を設立。全国の加害者家族からの相談に対応しながら講演や執筆活動を展開。著書『家族という呪い―加害者と暮らし続けるということ』(幻冬舎新書、2019)、『息子が人を殺しました―加害者家族の真実』(幻冬舎新書、2017)など。