それでは、売れた芸人が女性全体を粗略に扱うのかというと、そうとは限りません。ブレイクした芸人がアイドルや女優と結婚することは珍しくありませんが、乱暴な態度をとる男性と結婚したいと思う女性はいないはずです。ということは、彼らはアイドルや女優のような“人から羨ましがられる女性”とは誠実に交際し、名もない一般人は軽く扱うというふうに女性の社会的ランクで扱いを変えていたと考えられます。
芸能界有数の美女・佐々木希という妻がありながら、一般女性にお金を渡して不貞行為をする渡部を理解できない人もいると思いますが、渡部は「妻や恋人と、性欲を処理する女性は全く別物」という昔のスタンダードを今も引きずっていたのではないでしょうか。
「売れたオトコは何をしてもいい」という昔の常識
しかし、時代は変わっていきます。テレビ局のコンプライアンスが強化され、社会的良識が重んじられるようになると、上述した「家についてきた女の子がヤラせてくれないから、鶏肉を投げた」ような犯罪要素を含んだ話はもちろん、不倫も笑い話にはならなくなりました。
かつてテレビの感想はお茶の間で話し合われたものですが、現代のお茶の間はSNSです。2017年に「#MeToo」運動が起きて、フェミニズムの機運も高まっています。性にからんだ問題は、顔が見えないSNSだからこそ意見を言いやすい部分もありますし、大きなムーブメントに発展しやすいもの。テレビ局やスポンサーも炎上を恐れていますから、SNSの意見は無視できないと思います。
芸能界とSNSの最大の違いは、SNSが判官びいきであることです。人気芸能人が一般人を呼び出して性のはけ口にしたというのは、「人気がすべて」の芸能界的感覚で言えば「よくあること」かもしれません。しかし、SNSでは「人気芸能人のウラの顔」のような話題のほうが盛り上がりますから、必要以上に叩かれやすいでしょう。
渡部とテレビ局はそういう時代の流れに気づかず、「売れたオトコは何をしてもいい」という昔の常識にあぐらをかいて、アップデートできないオジサンになってしまったのではないでしょうか。謝罪会見と言いながら、いまいち謝っている気持ちが伝わってこなかったのは、「ほかの芸人もしていることをしただけ」「遊べる人だと聞いていたし、お金も渡していた」という「昔の常識」が邪魔をしていたのかもしれません。
時代の空気を読むのは、芸能人にとって大事なお仕事。復帰にはまだまだ時間がかかりそうですが、幸いにして妻子と相方には見捨てられていないわけですから、どうにかがんばっていただきたいものです。
<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」