「2度と声は出ないと思っていた……」
「こんな自分でも、必死に治療してくれる人がいる」
事件直後の'19年9月、犯行時の全身ヤケドから奇跡的に一命をとりとめた青葉真司被告は1日中、泣き続けた。そして、医療スタッフに感謝の意を伝えたという。
「盗作された」と京都アニメーションの第1スタジオ(京都府伏見区)にガソリンをまいて火を放ち、36人の命を奪い33人の重軽傷者を出した事件から1年半─。
被告の精神鑑定の留置が終わり起訴されて、ようやく裁判への第一歩となったが、回復途上で初公判の期日は決まっていない。
現場が“聖地”になってしまうと
「遺族と私とは立場が違うので、“死刑にしてほしい”などとは、簡単には言えません。ただ、被告にはどうしてこんなことをしたのか、本当のことを正直に話してほしい。それが助けられた被告の使命だと思う」
と週刊女性に複雑な心境を語ったのは、京アニの取締役で“天才アニメーター”と呼ばれた木上益治さん(享年61)の友人・渥美俊彦さん(60)。
渥美さんは40年ほど前、東京のアニメ専門学校時代に、木上さんと同居していた無二の親友だった。
同じく木上さんが東京時代に働いていたアニメ制作会社の社長だった本多敏行さん(70)も、こう話してくれた。
「今後はやはり、なぜこのような事件を起こしたのかですよ。2度とこんな痛ましい事件が起きないように、徹底的な解明をすることが望まれます」
そんな遺族関係者たちの胸中と同じく、事件現場となった京アニスタジオの跡地も揺れている。
《長時間の立ち止まりはお控え下さい》
と第1スタジオ跡地のフェンスには貼り紙がされていて周辺の町内にも、
《私たちは、ここで生活をしています。その日常や、プライバシーが脅かされることがないよう、お願い致します》
という貼り紙があちこちに見られた。
4月に取り壊しが終わった跡地は更地のままだが、その後もファンが後を絶たず、警備員が常駐。週刊女性記者も声をかけられてしまった。
「犠牲者には気の毒だという気持ちはありますが、町内会では、慰霊碑や公園を造ってほしくないと要望しています。“聖地”になると、ファンがさらに訪れ、私たちは悲惨なあの事件をいつまでも思い出してしまいます」
近隣の住民はそう訴えながら続ける。
「京アニ側に土地を売却したい気持ちがあったとしても、遺族感情を逆なでしてしまう。いわくつきの土地になり買い手がつかないかもしれず、非常に難しい立場だと思いますけどね」(同・住民)
京アニの公式コメントでも、「何ら定まっておりません」「特段の協議は行われておりません」としているが、関係者と地域住民の板挟みで苦しいところだろう。
「こんなに多くの人が死ぬとは思っていなかった」
と述べる程度で、いまだ被害者への謝罪や反省は口にしていないという青葉被告。
やがて裁きの場に出たときに、犠牲者の数だけではすまない罪の深さを、正面から受け止めることができるのか