しかし、そんな“サッチー包囲網”にも野村さんはひるまない。プロ野球の名監督である夫・野村克也さんや政界に誘った小沢一郎のような大物が背後にいるからか、強気な姿勢を崩さず、しぶとく立ち向かった。その対決はまさに、浅香さんの本業である女剣劇を思わせるものだ。
とはいえ、このバトルのなかで野村さんの経歴詐称が発覚。衆院選の繰り上げ当選の権利を辞退することになった。さらに、2001年12月には脱税容疑で逮捕されてしまう。これにより、騒動は収束するわけだ。
浅香さんと野村さんの関係性
結果として、浅香さんは野村さんの「ツラの皮」をひんむくことに成功したといえるが、'17年に野村さんが亡くなると、こんなことを口にした。
「あたしよか長生きすると思ってたのに、人間ってわからない。(略)あの度胸はなかなかない。万分の一でも、もらいたい」
一方、野村さんも「浅香光代を全国区にしたのは私よ」と語っていたらしい。今となってはこの騒動、どこか爽やかにすら感じられるのは、プロ同士のケンカだからだろう。大衆はあくまで見物人だったところが、最近の騒動との違いだ。
というのも、ネット社会ではそのケンカに大衆も参加しやすく、その反応で勝負がすぐについてしまう。マスコミはそれに乗っかり、負けたほうを集中砲火できるからだ。プロのケンカをじっくり楽しむ余裕は、マスコミにも大衆にももはやないのである。
ミッチー・サッチー騒動のような有名人同士のガチバトルは、浅香が愛した女剣劇のようにすたれていくのかもしれない。
PROFILE●宝泉 薫(ほうせん・かおる)●作家・芸能評論家。テレビ、映画、ダイエットなどをテーマに執筆。近著に『平成の死』(ベストセラーズ)、『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『あのアイドルがなぜヌードに』(文藝春秋)などがある。