“ゆるふわ女子”時代をぶっ壊す

 余談になるが、江口は前髪を作らない。何かこだわりがあるのか、前述したドラマでもすべて前髪は作っていない。これ、日本の女優でも珍しいほうではないか? 最近読んだ『なぜ外国人女性は前髪を作らないのか』(サンドラ・ヘフェリン著、中央公論新社)に「なるほど」と思うことが書いてあったので、ざっくり要約しておく。

《ドイツを含むヨーロッパでは前髪を作っている成人女性はあまり見かけない。前髪を作ると顔は「幼い」印象になる。ヨーロッパではファッションも髪型も「大人の雰囲気」をもつ女性が支持されるので、「かわいく見せたり」「子どもっぽく見せたり」というような“おしゃれ”からは足が遠のく傾向がある。(中略)偏見かもしれないが、上目遣いをする女性は前髪を作っている印象がある。上目遣いも前髪もある種の「幼さ」や「弱さ」をアピールするもの(なので自分は前髪を作っていない)》

 膝を打った。江口が前髪を作らない、というか、前髪のない役が多いのは、次のことが求められているからだ。額を広く見せることで伝わる聡明さや知的な印象。そして若さに固執していない潔さ。前髪に気を取られる手間暇が無駄と考える合理的な性格、あるいは面倒くさがり屋。幼さや弱さはいらないというわけだ。

 これからの女性のあるべき姿、理想像にぴったりだし、無意識に私が江口に好感をもっているのはそこもあるのか、と納得がいった。

 ぶっきらぼうだが、媚びない潔さと流されない強さ。江口はそんな役をきっちり体現できる、稀有な女優だ。やっと時代が江口のりこについてきた、そんな感じがしないでもない。ちょっと前まではゆるくてふわふわした女が求められる時代だったからな。「癒し系」と冠がつくタレントが妙に多かったし(個人的に癒し系は1ミリも信用しない)。

 が、今は違う。男にも女にも世間にも媚びなくていいし、なんなら常に笑顔じゃなくてもいい。ぶっきらぼうは無愛想ととられるかもしれないが、決して愛想がないわけじゃない。つまらないことには当たり前にあきれて、愛想笑いをしなくてもいい。失礼なことには当たり前に怒る。イヤなものはイヤと当たり前に断る。女性蔑視発言には憤怒すべきだし、わきまえない女でいい。そんな令和の時代のミューズ(女神)として、ぜひ女優・江口のりこを推したい気分だ。

吉田 潮(よしだ・うしお)
1972年生まれ、千葉県船橋市出身。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。『週刊フジテレビ批評』(フジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。また、雑誌や新聞など連載を担当し、著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『くさらないイケメン図鑑』(河出書房新社)、『産まないことは「逃げ」ですか?』『親の介護をしないとダメですか』(KKベストセラーズ)などがある。