どんな女友達でも「真偽の検証」を
この手の話を聞いて「私だけは大丈夫」と思った人がいたら大間違い。闇の深い人物は実に魅力的に見える。見えてしまう。危機感をもって女友達注意報を発令しておく。
まず、「ほらふき」と「嘘つき」の違いを見極めることだ。ほらふきはその場を楽しませるためのリップサービスということもある。だいたい話がデカい。主語は自分。自分を大きく見せるためのネタだなと話半分に聞き流すこと。
でも、嘘つきは主語が他の人になる。「〇〇さんがこう言ってたよ」「××さんから聞いた話」「みんなそう言ってる」と話す。そして、周囲への不信感を煽り、つながりを断とうとする。福岡の事件のママ友の言葉を改めて見ると、よくわかる。その人の言葉だけを信じていたら、周囲に人がいなくなる。それこそが狙いなのだから。
以前、私にも嘘つきの女友達がいた。「〇〇さんがこう言ってたよ」というので、〇〇さん本人に直接確かめたところ、大嘘だった。むしろ逆の発言をしたと言う。もうその時点で縁を切ろうと思った。悪しき人ではなかったが、縁を切って正解だった。
その後の報道によると、このママ友が名前や年齢を偽っていたことや、前の夫名義で借金をしてトンズラしていたことがわかった。周囲には「DV夫から逃げてきた」と嘘をついていたともいわれている。彼女の闇が深すぎて恐ろしいのだが、「嘘つきは泥棒の始まり」であり、嘘に嘘を重ねると犯罪はエスカレートするのだと証明したようなものだ。
私の身近でも、さらっと学歴や経歴を詐称する人がいたので、なんとなく腑に落ちた。特に海外留学とか外資企業勤務って、簡単には確認できないからよく使われるよね。うしろめたさは人を情熱的な冗舌にする。そして嘘が通用していくと、罪悪感はどんどん薄れていく。人の人権や生活、命を奪っても罪の意識がないモンスターが誕生するのだ。
どんな女友達でも「真偽の検証」は必要だと思う。このママ友は「裁判」だの「浮気調査」だのと、手続きが面倒で専門家を必要とする案件を代理で行ったとうそぶいたようだ。「ヤクザに頼む」などの稚拙な作り話も鵜呑みにせず、疑うべきだった。金が絡むのならなおさら、書類を確認して事実関係を把握すべきだった。
また、話の中に人名なり会社なりの固有名詞が出てきたら、ネットで検索して、電話をかけて確かめるくらいの慎重さが必要。なんだか詐欺対策みたいになってきたけれど、「女友達」「ママ友」だからといって油断しちゃならねーってことよ。
そもそも、まず大前提として「友達で金のやりとり」がおかしい。いくら頼りになる、信用できると思っても、女友達が金と生活を支配する関係はどう考えても異常だ。
そこでやはり「複数の女友達」が有効である。男でもいいのだが、ええかっこしいの男性よりも、しょっぱいことを平気で言ってくれる女友達が複数いたほうがいいと思った。たとえ絶大な信頼を寄せる女友達ができても、オンリーワンは危険だ。
複数の女友達とほどよい距離感を保ちながら、近況を報告したり相談しあえていれば、真偽の検証もできたのではないか。トラブルがあったにせよ、いろいろな意見や考え方、解決方法があるとわかれば、洗脳されて思考停止状態まではいかなかったはず。
母親にはほかに女友達がいなかった。だから悪しきママ友ひとりにたかられ、生活も人生も支配され、正気もわが子も失った。そこが悔やまれる。
ちょうど女友達をテーマにしたドラマ『ナイルパーチの女子会』(土曜21時~、BSテレ東)にドハマりしていたところで、この事件を知った。束縛と支配欲が強くて女友達ができないエリート女性が、ずぼら主婦ブロガーの人生を食い荒らしていく物語で、もう少しライトでベクトルの違う話ではあるが、根底には何か通じるモノがある。
女友達の関係に「支配」「束縛」「依存」はない。何かの「代行」も頼むべきではない。そして「金のやりとり」もない。もしこれらが発生したら、もう友達ではないと思え。
私の周りにも、闇が深い魅力的な女友達に翻弄された友人が数人いるし、自分も案外弱い。すぐ信用しちゃう。友達の境界線は自分なりにきっちり引いておくべし。この事件を特異な洗脳事件と片付けず、他人事と思わないことだ。友達が少ない人は、特に。
吉田 潮(よしだ・うしお)
1972年生まれ、千葉県船橋市出身。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。『週刊フジテレビ批評』(フジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。また、雑誌や新聞など連載を担当し、著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『くさらないイケメン図鑑』(河出書房新社)、『産まないことは「逃げ」ですか?』『親の介護をしないとダメですか』(KKベストセラーズ)などがある。