「うち、ひとりになっちゃった」
海音ちゃんのことを思うと、泣きごとはいっていられないが隆子さんにとっても、純さんは大切なひとり息子だった。
「でも、5日に火葬することができたので、パパとママを一緒に連れて帰ることができたんです。これで3人が、やっとそろいました」
それでも、海音ちゃんにはっきりと「死」について話すことはできなかった。
ママの遺骨を預けているお寺に行ったときのこと。
「“ママに会いに行こう”っていったら、“行きたくない”っていうんです。もう、お姉ちゃんのところに行っちゃったことが、わかったんでしょうね。だけど、“やっぱりママに会ってくる。そのかわり、誰も来ないで。うち、ひとりで会う。あーちゃんも来ないで”っていうんです。そして、海音ひとりでお寺の中に入って行きました」
中での様子は、後にお寺の奥さんに聞いて、またも孫の毅然とした姿に驚かされた。
海音ちゃんは、ママの遺骨に優しく手を置いて、
「ママ、お姉ちゃんのところに一緒に連れて行ってあげるからね。ばーばもひとりじゃかわいそうだから、ばーばも一緒だよ」
と、母方の祖母のことも思いやり、肩を震わせ大粒の涙を流していたという。
「お寺から出てくる直前に、一生懸命、涙をふいている姿が見えました。外に出てきたときには、泣いてないふりをして……」
隆子さんは、そんな孫の姿を見て「本当に強い子」だと実感したが、海音ちゃんの本心を垣間見た言葉もあった。
「熊谷家は、うち、ひとりになっちゃった」
突然の言葉に隆子さんは、
「あーちゃんも、じーじも同じ熊谷家なんだよ」
といったが海音ちゃんは、
「うちの熊谷家は、パパとママとお姉ちゃんだけなの。だから、うち、ひとりしかいないの。あーちゃんの熊谷家とは違うの」
これには、なんていったらいいのか、言葉に詰まってしまったという。
「でも、パパとママも見つかり、これでお姉ちゃんと3人そろうことができ、今はホッとしています。海音は家に帰り、3人に手向けたお花が少しでも枯れると“新しいお花に替えてあげなきゃ”って、毎日、手を合わせています。私たち夫婦は、この子に生かされているな、ってすごく感じるんです。3人が亡くなったときは、海音ひとりが残され、あまりにも不憫で、一緒に死ぬことも考えました。どう育てたらいいのか、何度も泣きました。でも今は、海音にとても大きな力をもらっています」
きれいな花を見れば、パパとママとお姉ちゃんを思い出し、夜空を見上げれば、いつでも3人に会える。
そんな海音ちゃんは、また祖父母を元気づける源にもなっている。