「対価型の中でも特に忘れられないのが、若いお母さんで、子どもを連れてもう食べるものもなくて困っているところに“特別に食べものをあげるから夜、取りに来て”と男の人に言われて行くと、あからさまに性行為を強要されたという話。現代の日本でこんなことがあるのかと、驚きました。

 もともと立場の弱い人たちが、被災地ではいつも以上に支援に頼らざるをえなくなる。しかも、避難所で共同生活をすることで、嫌でも周りに知られてしまう。そうすると標的化もされやすい。周りも“ちょっとくらい我慢しなさい”とか、“みんな大変だったんだから、命あっただけでもありがたく思いなさい”とか、被害者に忍耐を強いる論調が強くなってしまいます」

どちらに頼るでもない、
“男女がともに担う”防犯体制を

 普段の「立場の弱さ」という格差が、暴力につながる余地を生んでいると池田さん。では、具体的に、避難所ではどのような対策が求められるのか。

「多くの避難所では男性たちがリーダーシップをとっており、意見を出し合ったりいろいろ決める場に女性たちが少ないのが現状です。しかし、女性も男性とともに責任者として避難所の運営に関わることが必要。どこに女性用の仮設トイレを置いたらいいか、女性用品などは、やはり女性にしかわからない。安全対策も男性だけが担当者の場合、女性は訴えにくいものです」

 男性に任せっきり、女性に任せっきりではなく、「男女がともに担う、防犯体制が有効」とのこと。さらにこんな具体策も。

「トイレを男女別にし、女性用トイレの場所は女性の意見を聞いて決める、避難所の開設直後から授乳室や男女別の更衣室を設けるなど、避難所のスペース活用にも安全確保の視点が重要です。また、巡回警備をしたり、啓発のポスターを貼るなど暴力を許さない環境づくりの整備や相談窓口を設けること、災害時の支援活動を行う人向けに、災害時の性暴力について知り、その防止に努めるよう研修を行っておくことも大切なことです」

 では、個人でできることは?

ひとりで出歩かない、周りに声をかけあって移動するなど、個人でできることもなくはないのですが、それだけが対策になってしまうと、“自己責任論”になってしまう。ひとりで出歩くなって言ったのに……と、守らなかった人の落ち度となっても困る。

 避難所に行くと、よく“女性と子どもは一人で出歩かないようにしましょう”というメッセージを目にします。でもそうではなく、“みんな見守ってます“など加害者側へのメッセージにする。例えば、駅では“痴漢に注意!”という看板が、最近では“痴漢は犯罪です”という加害者側へのメッセージに変わってきています。潜在的な被害者と加害者と、その他大勢を巻き込むメッセージが必要です。

 また、先ほど“若いから仕方がない”と言って周りの女性が助けてくれなかったという事例を出しましたが、そのような間違った考えに加担しないのも、私たちにできることだと思います」

 2016年の熊本地震では、避難所内に間切りが設けられたり、性暴力の注意を促すチラシが配られるなど「一歩前進した感覚があった」と話す。それでも性被害は起きたというが、確実に安全面は改善されつつある。

「多くの女性たちが声をあげ、それに男性たちが一緒に頑張ろう、この問題を考えようと思ってもらえたら」

 いつ、誰がそうなってもおかしくない、避難所生活。今後、さらなる対策が求められる。

参考:静岡県警 防災防犯マニュアル「防災女子赤のまもり」「防災女子青のまもり」