施設を細分化した後、名前を変えて暗躍
筆者は以前、『反貧困ネットワーク埼玉』のスタッフから、「埼玉県は、“無低天国”と揶揄(やゆ)されるほど、悪質な施設が多い」という話を聞いた。
「それは、いまでも変わりません」と、高野さんは語る。
東京都では新規の無料低額宿泊所を作る際には完全個室にすることを義務づけるなどガイドラインで規制を強化したため、悪質な業者は埼玉県など周辺部を拠点にするようになったという。
埼玉県における無料低額宿泊所の数は、5年前の55から73に増えた(2021年1月1日現在)。
「無料低額宿泊所のスタッフだった人たちが似たような施設を作っている例が少なくありません。さいたま市などでも独自に条例を作成して規制を強化していますから、悪質な事業者は一見、縮小しているようにも見えます。しかし、実際には小分けされて名前を変えて運営しているのが実状です」と、高野さんは語る。
「無届け施設が増えており、首都圏でわかっているだけでも1000以上あります。一軒家を借りて、こぢんまりと運営していたりします」
厚生労働省では、2020年度から原則7.43平方メートル(約4.5畳)の個室化などを省令で規制した。ただし、既存の建物に関しては3年の猶予があり、今年2月の時点では、「相談者の話を聞く限りでは状況は全然変わっていない」と語っていた高野さん。しかし、ここに来て少しばかり動きが見えてきたという。
「川口市にある無低が、1人あたりの住居スペースが規定に満たないために閉所することになり、入所者は他市に移ることになったようです。この機会にアパート転居を希望している入所者もいて、福祉事務所もそれを認めたと聞きます」
行政には、さらなる規制強化を図ってもらいたいところだ。
林 美保子(はやし・みほこ) 1955年北海道出身、青山学院大学法学部卒。会社員、編集プロダクション勤務などを経て、フリーライターに。経営者インタビューや、高齢者・貧困・DVなど社会問題をテーマにした取材活動に取り組んでいる。著書に『ルポ 難民化する老人たち』(イースト・プレス)、『ルポ 不機嫌な老人たち』(同)がある。