人には言いたくない“事情”を抱えて

 このような状況を避けるため、思いきって「PTAに入らない」という選択をした人もいます。以前取材を通して知り合ったYさんは、子どもが小学校に入る際、PTAに入らないことを決めました。彼女も子どものころ、母親や継父から虐待を受けた経験があり、いまもその後遺症に悩まされています。

 Yさんに、虐待を受けた人がPTAをつらく感じやすいのはなぜだと思うか尋ねてみると、こんなふうに話してくれました。

「どうしてPTAがいやなのか、私も最初はわかっていなかったんですけれど。ママ友などからPTAの理不尽な話を聞くだけで、それがトリガー(引き金)になって虐待されていたころの記憶がよみがえってしまうんだとわかってきました。

 それに、虐待を受けた当事者は学校でひどいいじめに遭っていることも多い。そうするとPTAって、虐待の記憶に加えて、いじめの記憶もよみがえらせてしまうんです。まさに、学校のなかでのことなので」

 虐待を受けた人だけでなく、精神疾患を抱える人たちにとっても、PTAへの参加は大きな負担になっていることがあります。

 中部地方に住むTさんは、上の子が小学校に上がるころに統合失調症を発症。はじめは幼稚園のPTAで役員を引き受けていたのですが、難しい折り紙やダンスなど、Tさんが苦手な活動を強いられることが続き、小学校になってからは声を掛けられなくなってしまったことを、悲しそうに話していました。

 また別の、うつ病の女性は、もうすぐPTAの役員決めがあるので、みんなの前で病気のことを言わなければならないかもしれないと心配していました。「世間には精神疾患への偏見があるので、子どもに影響があるかもしれない」と感じて、不安なのです。

 せっかく子どもたちが進学・進級するうれしい季節なのに、PTAの役員決めがあるために、晴れ晴れとした気持ちになれない保護者、母親たちが毎年少なからずいることが、残念で仕方がありません。

 どうかもし、PTAの役員決めで「できない理由」を公表しなくてはいけない空気になったら、「そんなのおかしい」と意見してもらえたら。

 それと同時に、世の中にはいろんな事情を抱えた人がいることを、もっとみんなに知ってもらえたらよいのですが。そういう人が身近にいることをみんながわかっていれば、本人につらい思いをして語らせるようなことは、なくなるのではないでしょうか。

大塚玲子(おおつか・れいこ)
「いろんな家族の形」や「PTA」などの保護者組織を多く取材・執筆。出版社、編集プロダクションを経て、現在はノンフィクションライターとして活動。そのほか、講演、TV・ラジオ等メディア出演も。多様な家族の形を見つめる著書『ルポ 定形外家族 わたしの家は「ふつう」じゃない』(SB新書)、『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』(ともに太郎次郎社エディタス)など多数出版。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。