第2に、演技力だ。芸人の中には演技がまったくできない人もいるけれど、高い演技力を備えた人が少なくない。我が家の坪倉由幸、ハナコの岡部大といった名前が挙げられるだろうか。
ネタを始めとした活動の中で、芸人にはしばしば演技力が求められる。言うまでもなく、コントには一定の演技力が必要となる。また、一見演技とは関係なさそうな漫才も、2人のやり取りだけで舞台上に別空間を作り上げる点、同じネタを初見の感じで繰り返し披露する点などで、演技力を要求される芸だ。歌手として芸能活動をスタートし俳優も務める夏木マリは、次のように語る。
「(漫才は)究極だもんね。2人でやるってすごく難しいし、演劇の基本だなって思うんですよね」(『やすとものいたって真剣です』朝日放送、2021年4月15日)
ネタだけでない。バラエティーでのトークにも、言葉ひとつで自分の世界に引き込む力が求められる。いや、表情や身振り手振りなども必要なトークは、総合的な身体表現とも言えるだろう。他の番組でも話したエピソードトークを初めて披露する感じで話し、聞く側の芸人も初めて聞いた感じで話を転がす、というのも一種の演技力の賜物かもしれない。
バカリズムは脚本家としても活躍する立場から、芸人と俳優の演技の違いを次のように語る。
「ドラマとかでよく長ゼリフあるじゃないですか。僕、あれはやらないようにしてるんです。(セリフを)割るようにしてるんですね。途中に相槌を入れたり。役者さんって、相槌に関してもちゃんと文字に起こして入れないと、読んでくれない。
そうなると、長ゼリフの間はずっと他の役の方を待ってるんですよ。芸人だったら、コントの間、自分のタイミングで相槌入れたりするから、そこにリアリティが生まれるんですけど」(『ごぶごぶ』毎日放送、2021年1月19日)
芸人が身体化した間合いのリアリティ。人によっては、それがドラマなどの映像作品にうまくハマるということなのだろう。
ドラマに必要な「普通の人」
第3に、“普通”であることを挙げておきたい。ドラマに出演する芸人には、特異な存在感を放つ者も少なくない。板尾創路や飯尾和樹が代表例だろうか。芸人としての普段のキャラクターが、ドラマの中でアクセントとなることも多い。
他方で、“普通”が武器になっている芸人もいるように思う。たとえば、3時のヒロインの福田麻貴。2020年のドラマ『危険なビーナス』(TBS系)に看護師役として出演していた彼女は、そのドラマ内において実に“普通”の人だった。『半沢直樹』のアンジャッシュ・児嶋もまた、アクの強い俳優陣の中で“普通”の雰囲気を醸し出していた。
メインの登場人物に美男美女が立ち並ぶことが多い地上波ドラマ。その中に紛れ込む、主要キャストでありながらも“普通”の人は、平板化しかねない画面に凹凸を作り、リアリティを宿らせる。芸人の相対的な親しみやすさが、見る者の共感を呼び起こす面もあるかもしれない。
今後も、芸人によるドラマなどでの活躍は続くだろう。ピン芸人の中でも屈指の演技力で『THE W』(日本テレビ系)王者に輝いた吉住、コント師として日常のディテールから可笑しみをすくい上げる演技力に定評のあるかが屋、ヒゲにメガネの風貌がCMでも存在感を放ち、妹の伊藤沙莉と同じく声質にも特徴のあるオズワルドの伊藤俊介、その哀愁を帯びた可笑しみが注目され始めている錦鯉を始めとした“おじさん芸人”たち――。人材は豊富だ。
<文・飲用てれび(@inyou_te)>