同じ苦しみを抱える誰かのために闘う
聖職者による性暴力は世界的問題となっている。先述したアメリカをはじめ、ドイツでも1946〜2014年に聖職者1670人が3677人の未成年者を、フランスでも過去50年間に約1500人の聖職者や教会関係者の3000人以上の子どもへの性虐待が報道された。
日本でも’19年、日本カトリック司教協議会が「聖職者による未成年者への性虐待の対応に関するアンケート」を実施。その結果、「被害を受けた」との16件の訴えが確認された。その被害年齢は、6歳未満1件、6~12歳5件、13~17歳6件、不明4件と、実におぞましい。
これらの被害者と鈴木さんには共通点がある。被害から10年~30年もたって、ようやく訴えの声を出せたことだ。それほど長期にわたって性虐待は人生を壊すのだ。
16件のうち、加害を認めたのは4件だが、筆者はカトリック中央協議会に4人の「その後」を尋ねた。だが、回答は「公表した内容以上のことは申し上げられない」というものだった。
被害から43年がたった昨年9月24日。鈴木さんは、加害司祭とカトリック仙台司教区に5100万円の損害賠償を求め仙台地裁に提訴した。カトリック司祭の性虐待を訴えた日本初の裁判だ。提訴の動機は、「この瞬間も誰かが司祭に捕食されている。その現状を絶対に変えたい」からだ。
だが、鈴木さんが被害を受けたのは’77年。損害賠償請求の時効は5年。単純計算すれば法律上、時効が成立していることになってしまう。この点を、提訴後の記者会見で、代理人の佐藤由麻弁護士はこう説明した。
「いつ被害を受けたかではなく、いつ本人が明確に被害を受けたと自覚したかが起算点となります。鈴木さんの場合は’15年10月なので、今が提訴できるギリギリでした」
第1回口頭弁論の開催は12月15日。鈴木さんは意見陳述に立つが、性虐待のあとに、いかに心も生活も壊されたかの半生を述べたあとで、こう締めた(要旨)。
「過酷な人生を耐えて生きてきた被害者を法の力で救済し、新しい人生を歩みだせるように心からお願いします」
だがこの日、被告側弁護士が「性虐待はなかった。あったとしても時効だ」と主張したことに鈴木さんは激しい衝撃を受ける。被告の立場としては当然の主張であるが、宗教上、自分を愛しているはずの人たちの代理人に否定されたような気持ちを覚えた。それから鈴木さんはうつ状態に陥り、翌月から1か月以上も仕事が手につかなくなった。
被告側は「A司祭は認知症になったので裁判に耐えられない」とも明言している。苦しい闘いになりそうだ。それでも過酷な半生を話してくれた鈴木さんは元気だった。
「私は約40年もゾンビのように生きた。その私が今、誰かのために動いている。この活動で元気になれるんです!」
性虐待を声に出せない人たちと1人でも多くつながりたい。その思いがあるから、鈴木さんの闘いは終わらない。