命を選別し、命を危険にさらす恐れのあるDaiGoさんの発言はとてもこのまま沈静化すれば終わり、というのではすまない。つくろい東京ファンドはじめ都内で生活困窮者支援を行う4つの団体は14日に『メンタリストDaiGo氏のYouTubeにおけるヘイト発言を受けた緊急声明』を発表した。

それでも生活保護を後回しにする厚労省

 そこではDaiGoさんに反省や謝罪にとどまらず「動画がヘイトスピーチに該当する内容であることについて真の理解に至ったうえで、改めて発言を真摯に反省・撤回し、生活保護利用者、ホームレス状態にある人々に謝罪すること」を求めている。

 さらに「『処刑』や『殺す』という言葉を用い、特定の人たちを社会から排除・抹殺することを正当化することは、ヘイトクライムやジェノサイドを誘発しかねない反社会的行為であることを認識し、この点についても明確に発言を撤回し、謝罪すること」を求めた。

 この提案が報道されると15日、DaiGoさんはスーツ姿で「昨日の謝罪を撤回いたします」という動画を再度、配信した。

 しかし稲葉さんが指摘していた「頑張っている」というロジックは変わらず。

「何かから抜け出そうと努力している人は評価されるべき」 「(生活保護利用者の中に)努力している人がいっぱいいます」 「自分はこんなに頑張れない。ひたすら後悔の念」

 と、頑張っていることを基準としており、その基準によって他人が生きることの権利を阻害していることに考えが至っていないままだった。

 世の中にはさまざまな理由で頑張りたくても頑張れない人はおおぜいいる。そもそも、頑張るという、その基準は誰が決めて、誰が判断するのか? そんな抽象的な概念で、人が生きることを邪魔することは決してあってはならないだろう。DaiGoさんの「頑張る」というその基準は自分の価値観であり、それを他者に押しつけることは間違っていることに気がついてほしい。

 コロナ禍に於いて、生活に困窮する人は増えている。しかし、生活保護を利用する人は実は増えていない。稲葉さんによると、

「厚生労働省が13日に生活保護の申請は国民の権利ですとした呼びかけをツイートしたことはよかったんですが、ホームページでは、生活を支援するためのメニューを紹介するページを、広告費をかけてまで宣伝しているのに、そこには最初のページに生活保護が出てきません。貸し付けの話がいちばん最初で、生活保護はページの最後にPDFのリンク先があって、そこに飛ぶと、18ページ目にやっと出てきます。生活保護の担当課はがんばっていても、厚労省全体として生活保護を後回しにしようとしているのかもしれません」

 と、国の対応にも疑問を呈している。生活保護を利用することは憲法で定められた権利だ。臆することなく、申請をしてほしい。

 なお、8月31日まで『あしがらさん』(https://www.youtube.com/watch?v=euXpt3bwAq8)というホームレスの男性を追ったドキュメンタリー映画がYouTube上にて、無料で公開されている。これはDaiGoさんの発言に対しての、監督の飯田基晴さんの反論だという。ホームレスの人たちのこと、生活保護について考えるきっかけになってくれるはずだ。


和田靜香(わだ・しずか)◎音楽/スー女コラムニスト。作詞家の湯川れい子のアシスタントを経てフリーの音楽ライターに。趣味の大相撲観戦やアルバイト迷走人生などに関するエッセイも多い。主な著書に『ワガママな病人vsつかえない医者』(文春文庫)、『おでんの汁にウツを沈めて〜44歳恐る恐るコンビニ店員デビュー』(幻冬舎文庫)、『東京ロック・バー物語』『スー女のみかた』(シンコーミュージック・エンタテインメント)がある。ちなみに四股名は「和田翔龍(わだしょうりゅう)」。尊敬する“相撲の親方”である、元関脇・若翔洋さんから一文字もらった。