無様でもいいから生涯、役者でいたい
『学校III』以降、すべての山田作品に小林さんは招聘(しょうへい)されることになる。この8月に公開された『キネマの神様』にも出演している。
映画監督・ゴウが主人公。彼がデビュー作の撮影初日に大けがを負い作品は幻に。失意でギャンブルと借金まみれになり、家族から見放されるが、それを映写技師でゴウと同僚だったテラシンが温かく支え、幻の作品が再び上映に向けて動きだす……。
ゴウ、テラシンはそれぞれ2人の俳優が担当。ゴウの若き日は菅田将暉さん、現在は沢田研二さん、テラシンはそれぞれ、ロックバンド「RADWIMPS」の野田洋次郎さんと小林さんが演じる。
小林さんは当初、若いテラシンを演じる野田さんの演技センスと自分が合うのか、やや不安だったという。
「若きテラシンが惚(ほ)れた娘に初めて会うシーンで、どんなリアクションをするのかなと思ってね。すると俺のイメージどおりだった。姿形は野田くんとは違うけど、気持ちはつながっていると思ったね」
ゴウを支える役を演じながら、映画に長く携わってきた自分を振り返るきっかけになった。
「結局、ふとしたときに手を差し延べてくれる人に出会えるかどうかで、その後の人生が変わってきますよね。僕の場合、監督をはじめ、照明さん、音声さん、美術さん等々、作品づくりに携わる多くの人たちとの出会いがあったからこそ、これだけ長く俳優をやってこれたんです」
小林さんの2人の子どもは俳優になっている。その決断に父親は反対しなかった。小林健さんはNHKの朝ドラ『ひらり』への出演が決まったとき、「選んでくれた人に感謝しろ」と言われたという。
健さんは撮影現場で、父親と共演したことのある俳優と出くわすことが多い。
「女優さんから“昔、お父さんに電話番号を聞かれた”と言われて、変な汗をかくこともあるにはあるんです(笑)。でもみんなにこやかで、嫌な顔をしていないから、よく言えば愛されキャラなのかなって。親父に嫌なことをされたから、“おまえにも同じようにしてやる”みたいな人には会ったことがないんです」
“2代目”への周囲の態度は、初代の評判そのものである。
今年80歳になった小林さん。この年になって、高倉さんの言葉を思い出すという。空路で『鉄道員』の撮影現場に行き、飛行機を降りるとき、こう言ったという。
〈稔侍、あといくらやっても(映画出演は)3本だよな〉
「聞いているだけで心が痛かったですけど、本当に3本だった。年をとると大なり小なりそういうことを考えますよね。僕は不器用だから、少しでも長く生きて、年相応の役ができたらってね」
そう語ったあと、小林さんはひと呼吸おいて、こう付け加えた。
「無様でもいいから、死ぬまで役者生活を続けたいね」
名優の本懐である。
取材・文/西所正道(にしどころ・まさみち )●ノンフィクションライター。人物取材が好きで、著書に、東京五輪出場選手を描いた『東京五輪の残像』(中公文庫)、『絵描き 中島潔 地獄絵一〇〇〇日』(エイチアンドアイ)など