北原さんは3年前に東海道新幹線内で起きた無差別殺傷事件のケースも挙げた。事件を起こしたのは小島一朗被告(22歳)。東海道新幹線の車内で包丁を振り回し、無差別に乗客を殺傷。1人が死亡し、2人が負傷した。

「あの電車には同日、東方神起のコンサート帰りの女性たちが、新横浜駅で大量に乗り込みました」

 事件の動画にはファンとみられる逃げ惑う女性たちが映し出されていた。

 小島被告は裁判で「一生刑務所に入りたい」などと動機を述べていたが、車内に乗り合わせた楽しそうに過ごす女性たちの空気を受けて攻撃を決行したのではないだろうか。

「この事件もフェミサイドだといまは思っています。亡くなったのは女性を助けた38歳の男性でした。フェミサイドは男性も巻き込まれます」

容疑者は女性を従わせる対象として見下していた

 なぜ女性を狙うのだろうか。2つの理由が考えられる。

 前出の佐々木さんによると、

「無差別殺傷事件の犯人は自分よりも弱い対象を狙う傾向があります。相手が男性だと抵抗されてしまい、目的を果たせない。なので、結果的に女性や子どもが狙われる」

 小田急線の事件も時間が早ければ通学中の女児が狙われていたかもしれないのだ。

 もう1つは女性に向けられる激しい憎悪だ。

「加害者は強い被害者意識を持っているんです」(前出・北原さん、以下同)

 きれいに着飾ってお金がある女性。楽しく暮らしている女性。認められている女性──。そう一方的に思い込み見ず知らずの女性と自分を比べ、自らが被害者になる。すると憎しみや妬みなどの感情がわき上がり、悪意が女性に向けられるという。

 その背景には歪んだ思い込みがあるのだ。

「男性のほうが優位であり、重きを置かれなければいけない、という刷り込みです」

 小田急線刺傷事件の対馬容疑者は「大学のサークルや出会い系で出会った女性にバカにされて生きてきた」とも述べている。だが、ナンパを繰り返していた過去も報道された。

イタリア美女と記念写真(容疑者のフェイスブックより、編集部で一部加工)
イタリア美女と記念写真(容疑者のフェイスブックより、編集部で一部加工)

「容疑者は本来、女好きなのでは、という意見もありますが彼は女性を同じ人間として見ておらず、従わせる対象として見下していた。そこには“俺は男だ”という強烈なプライドがあったのではないでしょうか」

 そんな意識を持つ男性にとって、女性はバカにし、蔑み、自分よりも劣った存在。そんな呪縛にとらわれている。

「それがフェミサイドにつながります。そしてなんらかのきっかけで事件を起こした」

 対馬容疑者は事件を起こす前、万引きで捕まっていた。そのとき、通報した店員は女性だったのだ──。

「小田急線の事件は無差別で女性を狙ったわけではないと論じる人もいますがフェミサイドです。女性に向けられる殺意や暴力があることを社会が認めないのは女性の命が軽く見られていることの表れでもあると思います。殺人や性犯罪だけでなく、すれ違いざまにわざと体当たりしてくるぶつかり男もそうです。彼らは屈強な男を狙うことはない。相手を選んでいるのです」