刷り込まれた「男尊女卑」の価値観
男尊女卑的な価値観が当たり前のように蔓延している社会で生きていると、どうなるか。斉藤氏は、盗撮に限らず強制性交(レイプ)、痴漢、小児性犯罪、下着窃盗などすべての性依存症者に見られる背景として、次のような傾向を指摘している。
「男性の場合、自分の達成感や支配欲、優越感を一時的に満たす不適切なストレス・コーピング(編集部注:ストレスへの対処方法)として、女性を支配する、劣位に置く、モノのように扱う、性的に貶めるという手段を取る傾向が強く見られるのです」
この社会で生きている以上、男性は知らず知らずのうちに女性嫌悪(ミソジニー)や女性蔑視的な価値観をインストールしてしまっている。その結果、無意識のうちに、女性に対して優越感を感じていないとアイデンティティや自尊感情を保てなくなっている男性は多い。
つまり、普段どんなに「女性差別をしないようにしよう」と気を付けている男性であっても、強い心理的苦痛や否定的感情に苛まれて心が弱っているときには、女性に限らず「自分よりも弱い立場にあるもの」を暴力や性的に支配することで、悩みやストレスが吹っ飛んでしまう可能性があるということだ。うっかり盗撮によって心が救われ、そこからハマってしまうことは誰の身にも起こり得るのである。
だからこそ、「自分は盗撮なんかしない」と切り離すのではなく、「他者を傷つけることで自分の傷ついた自尊感情が回復することがある」という自らの加害性を自覚し、日頃からセルフモニタリング(自分を客観的に観察)しておくことが必要なのだ。
「現代の日本社会に生きる以上、私たちはどうしても男尊女卑的な価値観に基づく認知の歪みを学習しやすくなっています。盗撮加害者として生まれてくる男性はいません。盗撮加害者になりたくて生まれてきた男性もいません。この社会のなかで、彼らは盗撮加害者になっていくのです。これまで見てきたとおり、“自分は盗撮なんてしない!”と強く思っていても、ある日ふとしたことで盗撮行為にハマってしまう可能性があるのです」
本書は、盗撮という一見ニッチな性犯罪について521名のデータをもとに詳しく書かれた本だ。しかしこの本を読み終えたとき、私たちは盗撮が自分と無関係な他人事ではないことに気が付くだろう。
私たちの生きる社会全体が、すでに深刻な「認知の歪み」を抱えた男尊女卑という依存症にかかっており、盗撮はその数ある症状のひとつにすぎないのだから。あなたが今、無意識にしている言動は、誰かにとっての盗撮のようなものかもしれないのだ。
福田フクスケ(ふくだ・ふくすけ)
編集者&ライター。週刊誌の編集を経て現在は書籍編集。またライターとして田中俊之・山田ルイ53世『中年男ルネッサンス』(イースト新書)、プチ鹿島『芸人式新聞の読み方』(幻冬舎)、松尾スズキ『現代、野蛮人入門』(角川SSC新書)などの構成に参加。雑誌『GINZA』で連載コラムも。Twitterやnoteにて、恋愛・セックス・ジェンダー論の発信もしている。