だから孤独を感じたときは、自分の趣味に対してコミュニケーションを図っていけると前向きに考えればいい。私には見たい動画が山ほどあるの。移動先にタブレットを忘れたときには、待ち時間の過ごし方に困るほどにね。孤独は決して悪いものじゃなくて、むしろ自分の「好き」と向き合えるチャンスの時間。孤独な時間も愛しましょう。
あるタンゴ歌手が見せてくれたもの
(5)「変なプライド」は捨てる
30代の経営者時代、教育することの難しさに随分悩みました。自分のプライドが邪魔をして部下や弟子にしっかりと教えられなかったのです。経営者として向いていないのではと感じていた中、人生が一変する出来事がありました。
転機は38歳。あるタンゴ歌手の方のメイクをしていたときです。
その方はコンサート会場に車椅子で来られていました。脚を怪我して立ち上がるのも辛いのに2時間半の公演をしなければいけない状況でした。まもなくして開演すると、車椅子から降りてステージに立ち、15センチものヒールを履いて何事もないかのようにタンゴを唄ったのです。幕が下りた瞬間、膝から崩れ落ちて車椅子に乗り、会場を後にしました。
その姿を見て、本当の「プロフェッショナル」とはこのことかと感じたのです。私よりもっと大変な人が、自分の選んだ道をプロとして全うする姿を見て心が震えました。私の悩みなんてたいしたものではなかった。
カッコつけずに部下や弟子に、恥ずかしいこともさらけ出していいんじゃないか。踏み出す勇気を失っていたんじゃないか。と気づきました。それからは変なプライドは捨て、弟子たちに「口紅を1ミリでも綺麗に引ければいい」という姿勢を見せるように意識したの。そうして仕事への情熱がもう一度芽生え始めたのです。
ここまで読んで下さった皆様に、心から感謝いたします。人生がうまくいかないとき、立ち止まってしまったときには、「苦しいときや辛いときに頑張るのは難しい。だから、1日1ミリでも前に進めば大丈夫。少し後ろに下がっても、また1ミリ前に進めばいい」。
この言葉を思い出して。
焦らず、ゆっくり、ゆっくり。
今回のメッセージが、どこか1つでも、じんわりと響いてもらえたら嬉しいなと思います。
IKKO 美容家
1962 年1 月20 日生まれ。 19 歳で横浜元町『髪結処サワイイ』に入社。その後、ヘアメイクアップアーティストとして独立。アトリエIKKO を主宰し、女性誌をはじめ、テレビ、CM、舞台などのヘアメイ クを通じ『女優メイクIKKO』を確立。 現在では、美容家・タレントとして活躍する傍ら、多くの美に対するプロデュー ス業にも注目が集まる。 2008 年女性誌マリクレール・ジャポン、初の人物賞として「プラネットミュー ズ賞」、2009 年韓国観光名誉広報大使( 韓国観光公社) に任命され、 「ソウル観光大賞」、2020 年@ COSME「BEAUTY PERSON OF THE YEAR2020」、その他多数受賞。