戦中と変わらない美しい景色
「上陸して最初に行ったことは全員で慰霊塔で戦没者に手を合わせたことです」
硫黄島に赴き、戦争の痕跡に触れた林田さんのいちばん最初に湧き上がってきた言葉は「ありがとうございました」だったという。
「うまく言葉にはできませんが悲しみよりも感謝の気持ちを抱きました」
摺鉢山の頂上には硫黄島を陥落させた米兵が星条旗を掲げるモニュメントもある。
「そこからの景色は海岸線が美しくて、とても素晴らしかった。おそらく戦中とほとんど変わらない景色。それに島には戦争前に住民が住んでいました。生活用品や神社など当時のものが残されており、“ここにも人がいたんだな”って感慨にふけったこともありました。……硫黄島にはさまざまな心霊体験の話などがありますが、ここに出る幽霊は戦争が終わったことを知らないんじゃないかって思いました。島はずっと時が止まっているんですから」
硫黄島バイトに訪れる人の中には硫黄島の戦没者遺族や、元島民の子孫ら島にルーツがある人もいるという。
林田さんは3週間、硫黄島で過ごした。
「長く感じました。朝も3時半から起きて半日以上歩いているし、毎日が濃厚でした。自由時間に歩き回って疲れていたので夜、米軍の戦闘機の離発着訓練の騒音の中でもぐっすり眠れましたね(笑)」
では、このアルバイトはどんな人に向いているのか。
「時間があって歩くのが好きな、好奇心がある人ですかね。島にいても何もしていなかったらつまらないです。年齢を重ねていても健康なら70歳過ぎの年配の方でも元気に歩いていたので大丈夫」
太平洋戦争と現代が交差する硫黄島。林田さんの人生にも大きな影響を与えた。
「戦没者を慰霊し、その存在に触れ、大切に生きなきゃ、と感じました。硫黄島で亡くなった方々はまだまだ生きたかった人たちばかりなんです。そういう犠牲の上に今の日本は成り立っていることを実感し、その人たちの分まで一生懸命生きなきゃいけない」
そしてセミリタイアした夫や息子さんが硫黄島バイトに興味を持っていたら応募を促してもいいと思う、と林田さん。
「硫黄島に行くのはお金を払っても行けるわけではないのでチャンスがあれば、まずは考えるより先に動いたほうがいい」