叶わなかった夢
多くの人に愛されていた居酒屋も、厳しい逆風にさらされていたという。やはり、コロナが経営に追い打ちをかけていたのだろうか。昇さんに電話で話を聞いた。
「閉店したのは事実です。やはり、コロナの影響が大きかったですね。協力金をもらったり、お昼にお弁当を出したりして凌いではいたんですが、やはり売り上げが上がらず……厳しかったですね」
息子の活躍を見守りながら切り盛りしていた店については、特別な思いがあった。
「この店は息子が高校生で活躍し始めたころにオープンしたので、いろいろと感慨深いものがあります。レース前に克が食べに来たり、水泳の先輩たちを呼んで食事をしたりしていましたから、選手たちのパワーの源や憩いの場所にもなっていたのかなと。閉店のときは、克本人も“寂しいね”と残念がっていましたよ……」(昇さん)
昨年の東京五輪を待たずに閉店を迎えたため、心残りになってしまったことも。
「リオ五輪のときは、お店にお客さんを呼んでみんなで応援したのがいい思い出です。東京五輪が無観客での開催になったから、またお店でお客さんと応援をして盛り上がる計画を立てていたんですが……。それが叶わず、残念でしたね」(昇さん)
たくさんの思い出が詰まった大切な店が無くなってしまったことは事実だが、どうやら暗い話題だけではないようだ。
「実は、コロナが落ち着いたらほかの場所でまたお店をやろうと考えているんですよ。今はその計画を立てているところです。もし、お店を出せることになったら記者さんにも報告しますね」(昇さん)
今後の展望を熱っぽく語る声は、明るく力強いものだった。
いまだ終わりが見えない新型コロナの感染拡大。中村と昇さんにとって大切な場所の復活のためにも、一刻も早い収束を願うばかりだ。