私たちの便利は外国人技能実習生に支えられている

 働かせてほしいと懇願する仮放免の外国人たちがいる一方で、日本は深刻な労働力不足の問題を抱えている。農業、水産、畜産分野で後継者不足が顕在化しており、今やベトナムや中国からやってくる技能実習生たちによって、日本の産業が支えられているということを、どれだけの日本人が知っているのだろうか。

 和牛も牡蠣も小松菜もメロンもみかんも、技能実習生がいなかったら、これまでどおりにスーパーに並ばなくなる。オリンピックなどの一大プロジェクトを労働力で支えているのも外国人だ。少子高齢化の日本で、私たちはもはや日本人だけで自立などできない現状がある。

 日本はまだ豊かだと思いたいのは筆者も一緒だが、つらくても現実を直視した方がいい。「外国人が日本の富をかすめ取りにくる」は幻想だ。日本はバブルのころの力をとっくの昔に失っている。あまり外国人差別をしていると、コロナ禍でなくても技能実習生が来てくれなくなると考えないのだろうか。そうでなくても、一部の良心的な雇い主を除き、劣悪な環境で働かせたり、実習生たちに暴力、差別を繰り返す日本企業や雇用主の情報はアジアの国々に伝わっていて、日本人気はダダ下がりになってきている。

労働力を補い、少子化対策としての移民政策

 深刻な人手不足は農業だけではない。コンビニや外食チェーンも同様で、私たちが日ごろよく利用しているチェーン店でも外国人がいなければ営業できない。そのくらい、私たちの生活は外国人に依存している。

 人手不足の深刻化は就労の現場にとどまらない。日本の少子高齢化は地方の過疎化を促進している。

 北海道東川町は2015年に全国で初めて自治体が運営する日本語学校を設立し、町独自の奨学金を設けて学費を助成、留学生の受け入れを進めている。留学生の増加によって人口が増加すれば、国の地方交付税が増える。外国人の流入によって増えた地方交付税を、町の高齢者福祉や子育て支援の財源にしている。

 島根県出雲市も同様で、少子化と人口減に強い危機感を持っている。出雲市の長岡秀人市長の言葉が重い。

「人が住まないと街は衰退する。人口減少がもたらす弊害は惨憺たるものがある。外国人だろうと日本人だろうと住みやすさをもっと極めていけば、なんとか人口減社会に逆らうことができるのではないだろうか。ぜひこの地で永住してもらいたいという思いがある。それにしっかりと取り組んでいくことが元気な地方として生き残る手段だと思っている」(光文社新書『データでよみとく 外国人”依存”ニッポン』より抜粋)

日本が生き残るための手段としての共存

 おわかりいただけただろうか。

 人道的観点から仮放免者(や技能実習生)の対応を改善しろというよりも、筆者はこの国が生き残るための手段として、外国人の受け入れを積極的にしてほしいと考えている。

 受け入れるからには、相手を「労働力」としてではなく、自分と同じ「人間」として受け入れてほしい。

 せめて、働きたい仮放免者に就労許可と医療保険を。それだけで、自立できる人はたくさんいることはデータを見れば明らかだ。

 筆者が身を置く「つくろい東京ファンド」のシェルターでも外国籍の仮放免者を受け入れていると書いた。しかし、過去には渡航先でホームレス化して帰れなくなった日本人の支援をしたことも何度かある。

 アメリカで、アジアで、路上生活をしていた日本人を助けたのは、日本大使館ではなく、地元の地域住民たちだった。地域住民で支援ネットワークを作り、交代で部屋に住まわせたり、食べ物を持って行ったりした。帰国を希望していた彼らのために、クラウドファンディングで帰国費用を集め、その傍らで日本での生活が保障されるよう、私たちの団体に連絡をしてくれた。

 日本に帰国し、地域で暮らして既に数年になる彼らを、海の向こうの市民たちは今も暖かく見守ってくれている。

 日本も、自国に帰れない外国人を差別せず、敵視せず、ともによき隣人として暮らせるようになってほしいと切に、切に望む。

 どうか、仮放免の人たちに就労許可を!医療保険加入を!

 彼らの「生きる」を応援してほしい。同じ命なのだから。

NPO法人「北関東医療相談会」(通称:アミーゴス)では、支援している仮放免者の治療費への寄付を募っています。通信欄に必ず「仮放免者への寄付」とご記入ください。民間ができる限界はとうに超える中、仮放免者の命をつなぐために奔走しています。ご協力、お願いいたします。
銀行名:ゆうちょ銀行
当座預金:アミーゴ・北関東医療相談会
記号:00150-9-374623
※NPO法人移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)が事務局となっている下記の署名活動も現在行われています。

【お金のない人から、高額な医療費をとらないで!】 コロナ禍で苦しむ移民・難民の命を守る制度を整えてください。https://chng.it/68CrKkZhcP)

※記事参考文献 光文社新書 データでよみとく外国人“依存”ニッポン NHK取材班


小林美穂子(こばやしみほこ)1968年生まれ、『一般社団法人つくろい東京ファンド』のボランティア・スタッフ。路上での生活から支援を受けてアパート暮らしになった人たちの居場所兼就労の場として設立された「カフェ潮の路」のコーディネイター。幼少期をアフリカ、インドネシアで過ごし、長じてニュージーランド、マレーシアで働き、通訳職、上海での学生生活を経てから生活困窮者支援の活動を始めた。『コロナ禍の東京を駆ける』(岩波書店/共著)を出版。