朝日新聞の失敗

 でも、鮫島さん、そうやってお先真っ暗と決めつけられた会社には、今も記事を書き、新聞を作ってる人々がいて、鮫島さんの厳しい言葉に「後ろ足で砂をかけられた気分」と怒る記者たちだって当然いますよね?

「そう批判されるのは別に構わないし、(批判は)あっていい。ただ、僕を批判する人は自分の言ってることが唯一の正義で、これだけ見れば世界が変わるとか、“世界の教科書”があるとすれば、それ以外認められないんじゃない? そもそも絶対に正しい真実とか正義ってないと思う。今起きている戦争やコロナも、100年後には今の考え方が覆るかもしれない。

 僕が言ってることは間違っているかもしれないけれど、僕は僕なりに誠意をもって正しいと信じるものを伝えます。もちろん、間違っているかもしれないというリスクもすべて背負って伝えます。朝日新聞の失敗は、『朝日新聞が言うことは真実です』とやっていること。本当かよ?です。政府の言うことを垂れ流してるだけじゃないのか?っていうのがいっぱいあるのにね」

 そうした経験と思いから、鮫島さんは朝日新聞を退社して自身のウェブメディア『SAMEJIMA TIMES』をスタートし、日々記事をアップする。YouTubeチャンネルも開設して、独自の政治報道を行う。その報道はこれまでのいわゆる政治の客観報道、中立であろうとするばかりにどこか傍観者的で、記者の感情や体温が感じられない報道とは一線を画す。

「客観中立、第三者的、傍観視点は面白くないんですよ。巨人vs阪神にみんなが熱狂するのは、ファンが熱狂的で負けたら泣くし、一心同体で応援するからだよね。それに対して新聞の政治報道は『客観中立性を保つフェアな報道』とか嘘みたいなこと言ってるから、いつまでもつまらない。

 僕のやり方は逆です。自分はこの人を応援してる、こんなに素晴らしい、でも自分はこの人を応援してるから割り引いて読んでね、と。でも、本当に好きだから自分なりに精一杯データと論理に基づいていかに素晴らしいか伝えたい。駄目なところも含めて伝えたい。それをみなさん自身で判断してくださいっていう。

 今は、そういうところにみんなが信頼を寄せる時代になったと思います。欧米ではとっくにそうなっています。調査報道でもそうで、みんな主観的な視点で記事を作っていく。記者は顔を出して自分のバックグラウンドまでいう。『私はこういう人間で、政治は○○党を支持しています。こういう研究をしてきました、これの専門です』とぜんぶ経歴を出してから、『その私がウクライナ問題を伝えます』とやる。

 日本がそうなれないのは記者がサラリーマンだからですよ。記者は署名記事でも会社の意向に反したことは書けないし、上司の顔色をうかがいながら誰からも抗議を受けないように細心の注意を払って記事を書く。その結果、誰の心にも響かない無難な記事が量産されていくのです。僕はそこに挑戦したいんです。もっとみんなで応援しようよ!って。政治でいうなら、まず応援してみる、参加してみる、当事者になってみる、というのが政治にいちばん関心を持ってくれることだと思うんですね

 鮫島さんは骨の髄まで政治記者なんだと思う。だから、なんとしても今の政治への無関心を変えたいと必死に思っている。それが鮫島流、新しいジャーナリズムだ。

捏造記者と呼ばれ、全身から血が流れたからこそ

「それは全・朝日新聞的なものへの否定、僕が出した答え。朝日新聞を読めば世界がわかる。ここに答えが書いてある。朝日新聞は教科書だ、みんなを俺が啓蒙してやる、大衆よ、朝日を読め、世界をこれで知れ、みたいなのは『傲慢罪』ですよ。 僕も、僕自身がそうだったんだから」

 でも、キツいことを言えば、そうした鮫島さんの報道姿勢への批判も大きい。ひとつの政党に肩入れし過ぎだと、私の周囲でも批判する人は大勢いる。

「朝日新聞政治部」/鮫島浩・著 (講談社・1800円+税)※記事の中の写真をクリックするとAmazonの購入ページにジャンプします
【写真】出版社の豪華な椅子にジーンズとチェックのシャツのラフな姿で座る鮫島さん

今はもう批判には慣れちゃった。なかなか経験したくてもできることじゃないよね。批判は怖いよ。世間中からバッシングをあびて、うわーっと罵詈雑言が押し寄せてくる。誰も声を掛けてくれなくて壮絶な孤独になる。でも、それを1回経験すると、強くなるんですよ。そうすると、たぶん、能力以上の何かが出てくる気がします。やっぱり経験は大事だね。

 僕は捏造記者と呼ばれ、全身から血が流れ、出血多量で死んでしまいそうな痛みを味わった。大学に入学した当初は六畳一間に水道もトイレもない部屋に住んで必死にバイトしてお金を貯めて車を買い、納税者にまでなった。そういう経験を積んで、それゆえのバイアスは自分にある。

 でもそういう自分をさらけだすことで、『あいつ、ちょっとひとつの党に肩入れし過ぎてるとかあるけど、書いてあるところは筋通ってるし』って読み方をしてもらえば、説得力が増すんだと思うんですよね。

 ジャーナリズムとは、ひとつの見方を示してる人がいて、また違う人もいる。いろんなのがあって、押し合いへし合いしながら事実が修正されていくものなんだと思います。決して答えを教えるものがジャーナリズムじゃないでしょう」


和田靜香(わだ・しずか)◎音楽/スー女コラムニスト。作詞家の湯川れい子のアシスタントを経てフリーの音楽ライターに。趣味の大相撲観戦やアルバイト迷走人生、政治など書くテーマは多岐に渡る。主な著書に『スー女のみかた』(シンコーミュージック・エンタテインメント)、『世界のおすもうさん』(岩波書店)、『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか?国会議員に聞いてみた。』(左右社)がある。ちなみに四股名は「和田翔龍(わだしょうりゅう)」。尊敬する“相撲の親方”である、元関脇・若翔洋さんから一文字もらった。