保護者と教育委員会の認識に格差
これに保護者からは、「公立中学の生徒の場合、特別な理由なく『ESAT-J』を受けなければ0点なのに、私立や国立の生徒は『ESAT-J』を受けるか受けないか自分で決められ、特別な理由なく受けなくても仮想点が与えられるのは不公平」という声も上がり、共感する都議も多い。
ジャーナリストの長野智子さんは、実際に『ESAT-J』に挑戦し、正解とは違っていた自身の回答例を示しながら、採点方法について、都教育委員会を取材したという。
「私が提示したいくつもの回答例については、意味さえ通じれば全部正解になることを確認しました。フィリピンでの採点は、英語教育の学位を持ち、研修を受けた専任のスタッフが担当するとのことです」
長野さんは、取材を通じて採点方法についての懸念は解消できたものの、保護者と都教育委員会の間に、周知の認識における格差があることを指摘する。
都教育委員会は「長年にわたりスピーキングテストを周知してきた。中止となれば対策を頑張っている生徒への影響は甚大だ」と話す。
それに対して、保護者の会は「生徒や保護者への周知が遅く不十分。学校からチラシを配られただけで、ほとんど何も説明されないケースもある。そもそも都教育委員会に問い合わせても返事をもらえない」と怒りの声をあげている。
「圧倒的なコミュニケーション不足を感じます。生徒や保護者にとって、高校入試が変わることは一大事です。それなのに学校現場にも情報がなかなか下りてこないのは問題ではないでしょうか」(長野さん)
「ダメだったら改善すればいい」が許されない
今回、この英語スピーキングテストが東京都で導入されると、今後は他府県にも広がることが心配される。
都議会には「全国初の試みだから、まずは始めて走りながら改善すればいい」という意見もあるが、中学3年生にとって高校受験は進学先を左右する大きな問題であり、初年度の実施は失敗だったということでは済まされない。
東京都は、指摘されている瑕疵を改善できないまま、英語スピーキングテストを強行するのか、反対する保護者も専門家たちも固唾をのんで見守っている。
お話を伺ったのは……
神奈川大学外国語学部・英語英文学科教授。筑波大学附属駒場中・高等学校などで、20年以上、中高生に英語を教えてきた。
フジテレビアナウンサーを経て、夫のアメリカ赴任に伴い渡米し、ニューヨーク大学大学院に留学。キャスター・ジャーナリストとして活躍中。