生前の岡本太郎は、テレビタレントとしても多くのバラエティー番組などに出演していた。そのうち、レギュラー出演をしていたのが、'86年〜

 '88年に放送されていた『鶴太郎のテレもんじゃ』(日本テレビ系)。同番組のMCを務め、現在は自身も芸術家として活動している片岡鶴太郎さんに太郎の“素顔”を聞いた。

片岡鶴太郎さんが語る岡本太郎

 鶴太郎さんは、毎週の収録前に、必ず太郎の楽屋に挨拶にいっていたという。

「楽屋に行くと、太郎先生と秘書の方(故・岡本敏子さん)がいらっしゃるんですよ。僕が『おはようございます。鶴太郎です!』って言うと先生は目を見開いて、『誰だ、君は?』って聞くんです。『鶴太郎です!』ってもう一度名乗ると『何だ、それは。名前なんてどうでもいいんだ』。いや先生が聞いたじゃないですか!って。このやりとりが必ず毎週あるんです(笑)」(鶴太郎さん、以下同)

 作品の名前にもこだわらなかった岡本太郎らしいエピソードである。毎週必ず、カメラも回っていないのにそのやりとりをしていた岡本太郎を、自己演出もできるサービスマンだったと思い返す鶴太郎さん。

「僕はバラエティーバリバリのお笑い芸人でしたから、当時は太郎先生のすごさってものがわかりませんでした。一緒に番組で子どもの絵を見たりしていたんですが、太郎先生は、子どもが見たままを描けることがものすごく尊いことだとおっしゃっていましたね。自分が絵を描くようになってから、その言葉の意味がとてもよくわかります」

 岡本太郎の絵は、通常の芸術に期待される「優しさ」「癒し」などの要素をあえて排除していると分析する。

「太郎先生の色って、“不協和音”なんですよね。例えば印象派のモネやルノワールなら心地よい色のハーモニーを感じるのに、太郎先生の色使いは心地よくない。絵に限らず作るものが徹底的に反逆的で、“座ることを拒否する椅子”なんかもそうですよね。『何だ、これは?』と思わせることが主眼なのかなと思うくらい。だからこそ目が行ってしまう、そして心に残るんでしょうね」

 大人になるにつれて、「こうあるべき」にとらわれてしまう現代の人にこそ「岡本太郎の言葉」は刺さるという。

「今はきっと時代に対して閉塞感を抱いている人が多いと思うんです。だから、『自由に生きる』と言われても常識に手足を縛られて解放できない。そんな人たちが太郎先生の生き方を見たら、すべてそれを度外視していてまぶしいでしょうね。

 僕に対して毎回先生が必ず『鶴太郎です』『名前なんてどうでもいいんだ』って言葉のラリーをしていたのも、“名前よりも、人間としてどう生きていくかが大事だ”というメッセージが根底にあったんだろうと思います」

 先行きが不安な今の時代こそ、岡本太郎のように“瞬間瞬間を爆発して生きる”ことが求められているのかもしれない。

片岡鶴太郎(かたおか・つるたろう)●1954年東京都生まれ。『オレたちひょうきん族』(フジテレビ系)でブレイク後、バラエティー番組を中心にお茶の間の顔として人気に。'95年に初の個展を開催し、以後芸術家としても精力的に活動。現在もヨガインストラクターなど、マルチな活躍を続けている。

片岡鶴太郎さん、「座ることを拒否する椅子」以外の画像はすべて(C)岡本太郎記念現代芸術振興財団

(取材・文/高松孟晋)