検査を受けても、遺伝子に変化が見つからない場合や、変化が見つかったとしてもそれに合った薬がない場合もある。また、たとえ薬があったとしても日本国内では未承認で使えないケースもあるのだ。そのため、まだ10%程度しか治療に結びつかないのだという。

新薬開発のための貴重なデータ

 では、ほとんどの人は検査を受けても意味がなかったということなのか。

「いいえ、実は検査を受けた方々の遺伝子変化の情報をデータベース化することこそが、日本のがん医療にとってとても大事なことなのです」

 もちろん、検査を受けた人を治療に結びつけることも大切だが、たとえ治療法がなかったとしても、個人を特定できないようにデータベース化して、大学などの研究機関や製薬会社などにその情報を利用してもらい、いち早く新薬などを開発してもらうことが今後において重要なのだ。

全がんの5年相対生存率は現在、約60%。亡くなっている40%の約半分は、早期発見・早期治療ができれば治せる可能性が大きい
全がんの5年相対生存率は現在、約60%。亡くなっている40%の約半分は、早期発見・早期治療ができれば治せる可能性が大きい
【写真】世界と日本でこんなに違う!新薬開発を助ける「日本のデータベース」世界との違い

「薬の開発のためには遺伝子の情報だけではなく、その患者さんにはこれまでどういう薬が投与されて、それは効いたのか、あるいは効かなかったのかといった詳しい治療歴も必要不可欠です。

 もちろん、患者さんの同意のうえでの話ですが、そういった細かい情報まで全国236の病院の先生方がデータベースに入力してくださり、製薬会社などと共有できているところが日本のがんゲノム医療が世界に類を見ない点だと考えています」

 例えば、女性にとってのサイレントキラーともいわれている卵巣がんを見てみると、特定の遺伝性の変異がある患者さんの遺伝子情報は現在、275人分あるという。

 ここまでは外国のデータベースでも同じだが、日本のデータには、その275人がどんな治療を受けたのかという情報まで細かく入っているのだ。