摂食障害を持つ人との付き合い方は?
自殺といえば、興味深い話がある。『完全自殺マニュアル』の著者・鶴見済はこの事件が起きた当時、雑誌のデータマン的な仕事をしていた。そして、家族でただ一人遺された父親のコメントを取るように言われ、その際にいろいろと考えたことが本を書く動機にもなったという。
本のあとがきには、こう記されている。
「『強く生きろ』なんてことが平然と言われている世の中は、閉塞していて息苦しい。(略)だからこういう本を流通させて『イザとなったら死んじゃえばいい』っていう選択肢をつくって、閉塞してどん詰まりの世の中に風穴をあけて風通しを良くして、ちょっとは生きやすくしよう、というのが本当の狙いだ」
実は摂食障害の人にはこの本の愛読者も多い。「イザとなったら死んじゃえばいい」というところが、彼女たちのやせ願望と通じるからだろう。緩慢なる自殺とも呼ばれる病気だが、死に少し近づくことで「消えたい」気持ちをいくらか紛らわせるのだ。
周囲はそこを躍起になって「生きたい」という方向に引き戻そうとしがちだ。ただ「北風と太陽」の北風方式ではなかなかうまくいかない。「消えたい」気持ちに寄り添い、自らは流されずに、「生きるのもまんざらでもないな」といった気持ちになるのを待つような太陽方式のほうが効果的だろう。
ネットにあふれる、摂食障害の子を持つ母親のブログを見ても、「上から」ではなく、おたがいの個性を認め合うような関係性を築けているケースのほうが好転しやすい印象だ。また、この病気を通して母と子の絆が強くなるケースも多く見かける。
やはり母と子にしかできないことが世の中にはあるのだ。人間という生き物を未来へとつなぐ根幹は、母子関係なのだから。
加藤秀樹(かとう・ひでき)●中2で拒食症の存在を知り、以来、ダイエットと摂食障害についての考察、その当事者との交流をライフワークとしてきた。著書に『ドキュメント摂食障害―明日の私を見つめて』(時事通信社)がある