東京・歌舞伎町の映画館TOHOシネマズ新宿付近にたむろをする若者の集団を指す“トー横”。警視庁は昨年末や今年3月に一斉補導を行うなど、排除の動きが進んでいる。その影響もあってか、若者たちが集う場所のローカル化が進んでいるようだ。
地域密着型の“○○界隈”が次々に生まれている
6月上旬、岐阜県大垣駅北口。5人の警察官が駅前でたむろっていた若い男性グループを取り囲んでいた。
「少し前から週末などは若者が集まって、“ミニトー横”みたいな状態になっているんですよ。隣接するローソンで買った酒を飲んで騒ぐ子もいますね。まだ“○○界隈”みたいな名称はないようですが、しいて言えばローソン横なので“ロー横”ってところでしょうか」(地元住民)
大阪のグリコ看板下に集う“グリ下界隈”や愛知県・名古屋のドン・キホーテ栄本店横に集う“ドン横”は知られているが、昨年あたりから広島県・福山駅のパーキング横を指す“P横”(広島駅パルコ横も同様の名前で呼ばれる)や、宮城県・仙台駅前にあるショッピングモール「イービーンズ」前に集う“ビー横界隈”など、地方都市にも“トー横”のような場所が続々と誕生している。
『ぴえんという病 SNS世代の消費と承認』(扶桑社)などの著書を持ち、新宿・歌舞伎町に集う若者を研究する現役女子大生ライター・佐々木チワワさんは、現在のトー横の状況をこう語る。
「歌舞伎町タワーが盛り上がっているときは一時的に広場ではなく、旧・トー横に集まっている時期もありましたが、現在は普通に若者たちが集まっていますね。土日になると人が増えたり、キャリーケースを持っている子もいるので遠くから来ている子もいると思います」
地方都市でも“トー横”のような場所が誕生している背景には、SNSの存在が大きいという。
「元々SNSで“こっちにも界隈作ろうぜ!”という動きはあったので、地域密着型の界隈が次々に生まれている印象です。SNSに投稿された様子を見て楽しそう! と思った子たちが、近くにいる人たちを集める……というスキーム(構想)という気がしますね」
根本は同じような価値観の若者が集まりたいというものだけに、ローカル化は進みそうだ。
「総本山が新宿ではありますが、同じようなファッション・同じような価値観の同年代と集まりたいというのが基本的な意識なので、その仲間が集まるところがあれば地域密着にもなっていくのではないでしょうか。
私自身が地方に住んだことがないため定着するかまではピンとはきませんが、 地域ごとに界隈を作り、ほかの界隈とも仲良くなっていく……という流れは続くのでは。ちなみに韓国にもソウル界隈というのがあるそうです」
歌舞伎町を取材し続けてきた佐々木さんは、“○○界隈”に集う若者たちをこう心配する。
「“○○界隈”はファッションとしての側面もあれば、たむろする居場所としての側面もあります。しかし歌舞伎町ではすでに悪い大人が薬物を売りさばいたり、危険な場所になっているので地方都市に集う“○○界隈”の若者たちが、悪い大人たちに搾取されないことを祈ります」
トー横だけでなく、地方の“○○界隈”が犯罪や売春の温床になる日も、そう遠い日ではないかもしれない。
佐々木チワワ 2000年、東京生まれ。歌舞伎町で幅広い人脈を持ち、大学では繁華街の社会学を専攻。『FRIDAY』(講談社)で「令和5年、歌舞伎町はいま……」を連載するほか、夜の街や歌舞伎町に関する記事を執筆中。